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フェロモントラップによる水稲害虫コブノメイガ及びフタオビコヤガのモニタリング
水稲害虫のコブノメイガ及びフタオビコヤガは、フェロモントラップにより発生時期や発生量をモニタリングできる。誘引源(フェロモン剤)を取り付けた粘着式トラップを水田内に設置し、5~7日間隔で誘殺された成虫を計数する。
フェロモントラップによる水稲害虫コブノメイガ及びフタオビコヤガのモニタリング [PDFファイル/195KB]
この研究成果は、フェロモントラップを用いてイネの葉を食害するチョウ目害虫コブノメイガ及びフタオビコヤガをモニタリングする方法を示したものです。
まずコブノメイガ、フタオビコヤガについて説明をした後、フェロモントラップを用いてこれらチョウ目害虫をモニタリングする方法をお伝えします。
なお、イチモンジセセリは、コブノメイガやフタオビコヤガ同様イネの葉を食害する代表的なチョウ目害虫ですが、
フェロモン剤が開発されていないため、本成果の内容に含まれません。
コブノメイガは、イネの葉を食害するチョウ目害虫で、葉色の濃い、あるいは生育が遅い圃場で多発生します。
新潟県では平成17年に多発生し、特に多肥栽培の圃場や直播栽培の圃場で被害が見られました。
コブノメイガは、沖縄を除く日本国内では越冬ができないため、大陸から梅雨時期の下層ジェット気流に乗って日本に飛来してきます。
そのためコブノメイガは海外飛来性害虫と呼ばれます。
このグラフは新潟県のコブノメイガ発生面積の年次推移を示したものです。コブノメイガの発生量は年次間差が非常に大きいことがわかります。
コブノメイガは、発生量や発生時期に気象の影響、特に梅雨前線等の前線活動の影響を強く受けるため、発生量や発生時期の予測が難しい害虫であると言えます。
フタオビコヤガは、イネの葉を食害するチョウ目害虫ですが、コブノメイガとは異なり水田周辺の稲わら内で蛹越冬します。
新潟県では平成22年頃県下全域で多発生し、問題となりました。
このグラフは、新潟県のフタオビコヤガ発生面積の年次推移を示したものです。フタオビコヤガの発生面積は、年次間差が非常に大きいです。また発生面積の推移は、多い年、少ない年がしばらく続くなど、トレンドあることがわかります。このことはフタオビコヤガは水田周辺で越冬するため、その年の発生量が次の年の発生量に影響するためと考えられます。従って、発生量を経時的に把握することが重要です。
コブノメイガやフタオビコヤガは、発生量が少なければ葉の食害も少なく、収量にほとんど影響しません。そのためこれらチョウ目害虫は、通常では、本田防除の対象ではありません。
しかし、多発生する年や地域があり、葉の食害が著しい場合は、減収を引き起こします。
そのため、モニタリングにより多発生の予兆を早めに把握することが重要です。
フェロモントラップとは、昆虫がフェロモンに誘引される性質を利用し、
合成フェロモンを用いて誘引した害虫を捕獲する装置のことで、主に害虫のモニタリングに用いられます。
フェロモントラップは従来から害虫のモニタリングに用いられる予察灯より、安価で設置や調査が容易で、
水田内で直接人間が調査する払い落し調査やすくい取り調査より、低密度でもモニタリングができ、
調査労力も小さいといったメリットがあります。
ここから、フェロモントラップによるモニタリング方法を説明します。
モニタリングには、害虫を誘引する「フェロモン剤」、フェロモン剤に誘引された虫を捕獲する「粘着板」、それらを取り付ける「トラップ」が必要です。「フェロモン剤」、「粘着板」、「トラップの屋根部分」は市販されているものを用い、これらを用いて「粘着式トラップ」と呼ばれるフェロモントラップを作ります。作物研究センターでは、イボ竹とクリップを用いて、図のような形で粘着式トラップを設置しています。
重要な留意点があります。粘着面に付着した成虫がアマガエルに捕食されることがあります。これを防ぐために、粘着面に食塩0.5g~1gを均一に巻いておきます。
設置方法についてです。
設置する水田は、周辺も水田が栽培されている水田とします。設置する位置は水田内としますが、中央部である必要はなく、畦畔から5条程度なかに入った位置で良いです。設置する高さは、草冠高とし、イネの生育に合わせて高さを調整します。
5~7日間隔で粘着面に付着した成虫を計数します。写真はコブノメイガのフェロモントラップの粘着板です。フェロモントラップには、対象害虫以外の昆虫も付着しますが、予察灯などに比べると対象害虫以外の混入は少なく、識別は容易です。
誘引源は1か月ごと、粘着板は対象害虫や他の昆虫の付着状況に応じて適宜交換します。
グラフは、実際にフェロモントラップを用いて調査した、コブノメイガ誘殺数の推移を示したものです。
コブノメイガは飛来性のため飛来時期、飛来量の年次、地域間差が大きいが、フェロモントラップにより飛来世代、増殖世代のいずれもモニタリングできます。
こちらのグラフは、フェロモントラップと予察灯を用いて調査した、フタオビコヤガ誘殺数の推移を示したものです。
フタオビコヤガはフェロモントラップにより越冬世代から第3世代までいずれの世代もモニタリングできます。
フェロモントラップは予察灯に比べ、誘殺数が多く、さらに予察灯では低温のため誘殺されにくい春期のモニタリングも可能です。
主な導入対象は、発生予察を行う病害虫防除所や各地位の病害虫防除協議会とします。
フェロモントラップを用いることで見取り調査などと比べて、精度の高い発生予察が期待できます。
留意事項です。
チョウ目のフェロモントラップでは、1台のトラップに取り付けられる誘引源は1種類までです。従って、1台のトラップで別種を同時にモニタリングすることはできません。
別種を同時にモニタリングする場合は、トラップをそれぞれ10m以上離して設置します。
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