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障害者芸術文化祭の文芸作品
文芸作品は、短歌27作品、俳句112作品、川柳17作品、自由詩65作品もの応募がありました。
いずれも、作者の皆さんの思いが込められたすばらしい作品ばかりです。
入賞作品は下記をご覧ください。
短歌部門
県知事賞
- 作者 佐藤 寧治さん
- 作品
蹇(なえ)ぐ足 青の途中は 渡らずに つぎの信号に 変るのを待つ - 審査委員コメント
とかく急いで渡りたがる交差点の日常詠です。
無駄なく簡潔に、一直線に詠んでポイントの青信号をうまく生かされました。
落着いた心が、二、三句にじんわりと滲んでいます。
しかも、次の青信号をの待ちは、「急がば廻れ」の諺そのもので、
動と静を結句でぴたりと決められました。歌の基本ができています。
審査員特別賞
- 作者 小田 将子さん
- 作品
ペースメーカー 植え替え成りて 繋ぎゆく 命いっぱい 輝き生きむ - 審査員コメント
ペースメーカーでの命を、陰から陽に向いて告白を秘めた心理は
読者の心証を強くうつでしょう。歌は人の心を写す鏡であり、
作者の心境が如実に表れています。三句の副詞を効かした下の句が良いです。
こうした心理詠は難しいのですが、よくぞ詠まれました。
俳句部門
県知事賞
- 作者 石栗 嘉一さん
- 作品
ひっそりと 瞽女(ごぜ)の墓あり 蝉時雨(せみしぐれ) - 審査員コメント
三味線を弾き、唄を歌いなどして家々を廻った目の不自由な
瞽女さんの墓がひっそりとありました。
上五、中七で瞽女さんへの深い思いを感じながら、作者は
「墓あり」と言い切りました。
蝉の声が時雨のように降りそそいでいる、まるで瞽女さんの三味線のように聞こえてくる。
取り合わせの効果が一句を完成さました。
実行委員長賞
- 作者 古川 左門さん
- 作品
水道の 水なまぬるき 原爆忌(き) - 審査員コメント
「原爆忌」という内容の重い季語を用いた作品です。
水道の蛇口を捻ったら生ぬるい水が出てきた。今日は折しも八月六日。
作者は原爆が投下された日の広島の人々に思いを馳せました。
中七の「なまぬるき」がこの句のポイントで下五の「原爆忌」で一句一章の句にまとめました。
川柳部門
県知事賞
- 作者 知野 良子さん
- 作品
この笑顔 あなた宝と 言ったわね - 審査員コメント
なに気ない表現ですが、「この笑顔」の表現と「あなた宝と」の表現で
あたたかい雰囲気が伝わって来ます。
作者からのひと言で「痛い、辛い、笑顔でいたいと願うことばかり」を
読んで更にこの句が輝いて来ました。
この句を大切にしてあげて下さい。
審査員特別賞
- 作者 長部 壮一郎さん
- 作品
街灯が 朝になっても ついている - 審査員コメント
私は読んですぐに○をつけた川柳です。
自然に感じたり見たりしたことをそのまま表現しているようですが、
このなに気ない表現が妙に心に伝わって来ます。
静かな朝を見事にキャッチしました。おめでとうございます。
自由詩部門
県知事賞
- 作者 マコチャンさん
- 作品 健康な身体
健康な身体とは、幻想なのかも知れない。
めまいや、耳鳴りは、誰にでもある。
頭痛も、誰だって感じたことはあるはずだ
それでも私は、今日も台所に立つ。
夕暮れに絶望感を抱くことは、誰でも一度は
経験しているだろう。
手際が悪く、不自由な身体で、
それでも私は、今日も台所に立つ。
台所に立てるということは、今日も生かされ
ているということ。
今日もお救いいただいたということ。
家族の笑い声を聞くために、家族との団らん
のひとときを楽しむために、私はまた味噌汁を
あたためる。
健康な身体という幻想を捨てて、ありのままの自分で、
かたむきながら、つまづきながら、
今日も私は台所に立っている。
この小さな小さな幸せを守るために。 - 審査員コメント
自分の欠かんを見つめるのはこわい。
だからないものねだりをして幻想をもち、ひどいときは病気になります。
この詩は「健康な身体」という幻想からの脱出記です。
「ありのままの自分で、かたむきながら、つまづきながら」は重い意味の
ある勇気ですね。大切なことは、身近なかかわりを目標としたことです。
この詩に深さを与えてくれました。
審査員特別賞
- 作者 古俣 キヨさん
- 作品 サイコロをふって
残り少ない 私の人生
サイコロをふって決めよう
一つ 時
二つ ケガ
三つ 病気
四つ じゅみょう
五つ 好奇心
六つ チャンス
先天性弱視 身長百四十三センチの体を
せいいっぱい すごろくに広げて
サイコロを ふる
産まれたての朝の空気
頭をカラッポにして 心はまっさらにして
良い事が ありますように
良い人に 会えますように
今朝も サイコロを ふる エイッ - 審査員コメント
元気をくれるからっとした詩です。
ままにならない人生、どっちにころがるか、だれかがサイコロを
ふっているのかと思うことがあります。
古俣さんは自分でサイコロをふり、現実は現実として認め、そこ
から脱けようとしています。
「頭をカラッポにして心はまっさらにして」―すてきな一行です。
最後の「エイッ」は大きな勇気そのものの一語です。