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障害者芸術文化祭の文芸作品
文芸作品は、短歌52作品、俳句79作品、川柳44作品、自由詩47作品もの応募がありました。
いずれも、作者の皆さんの思いが込められたすばらしい作品ばかりです。
入賞作品は下記をご覧ください。
短歌部門
県知事賞
- 作者 石岡 ひろ子さん
- 作品
探りつつ 厨(くりや)の隅々 磨きあげ 明日は旅立つ 古稀の集いに - 審査員コメント
旅行に出掛ける前に、厨をきれいに片付けておきたい。
しかし、作者は目が不自由でたやすくすることは無理だが、手探りで床を拭くことができ磨きあげた。
その「磨き」は苦労が身についているからこそ詠めたのであり、読者の心証を強く打つことであろう。
下の句の「明日は旅立つ古稀の集い」が上の句にマッチしていて実感がある。
審査員特別賞
- 作者 松田 ふさ子さん
- 作品
マニキュアを 姪(めい)の挙式に 合わせ塗る 幸色(さちいろ)染むる マヒの指先 - 審査員コメント
姪の結婚式に合わせて、マヒの指先に塗るマニキュア。
それは姪への祝福と作者のよろこびを新句で「幸色」と心理を込めて表現し、簡潔に詠まれていて好感。
俳句部門
県知事賞
- 作者 白井 正江さん
- 作品
塩(しお)利(き)かす おにぎりふたつ 震災忌 - 審査員コメント
関東大震災が起こった9月1日を俳句では「震災忌」と呼んでいる。
「塩利かすおにぎりふたつ」は日常的なことであるが、災害の多い昨今、この「震災忌」でがぜん意味を持ってくる。
「おにぎりふたつ」の一つは困っている人への分でしょうか。
作者の優しい思いやりがこもっている素晴らしい句です。
審査員特別賞
- 作者 金子 博文さん
- 作品
晩秋の 空大きくて 一人かな - 審査員コメント
空気の澄んだ晩秋は霞むこともなく、遠い県境の山並みまでよく見える。
空は広々と大きく故郷を包んでいる。
そんな空を見上げていると人は、淋しさを感じるものである。
ふと、自分は一人だなあと不安が頭をよぎった。
詠嘆の切れ字「かな」により、一人の不安を上手くまとめた。
川柳部門
県知事賞
- 作者 樋口 和輝さん
- 作品
紅葉の 山にのぼって 手をふった - 審査員コメント
この句は自分の行為をそのまま五・七・五で表現している。
紅葉の山の美しさの中にいる自分を十二分に現わしているところが良い。
その自然の行為をこれからも示して欲しい。
審査員特別賞
- 作者 水野 千津子さん
- 作品
両の手に 最後のぬくみ 忘れない - 審査員コメント
中七の「最後のぬくみ」が心に響く。
あなたのためにもそのぬくみを大切にして欲しい。
自由詩部門
県知事賞
- 作者 石澤 スミエさん
- 作品 私の手
右の手、左の手、両方合わせて一人前、
私は右ききだった。
ある日突然、右の手が疲れたのか休んで、
ずっとお休みしている
ご飯も手づかみで食べた。飲み物もこぼした。
介護の人にいろいろ言われた。
でも私は、ずっと私を支えてくれた右手だから、
感謝しなければと思う。あれも出来ない、
これもだめだと思えば悲しくなるけど、
私には元気いっぱいの左手があるよ!
苦労して覚えた大好きなおり紙だっておれる!
右手さんありがとう。左手さんこれからもよろしくね。
私の左手、私の手ばんざい!! - 審査員コメント
障害の不満は山ほどあります。評者も左目、右耳がだめです。
不満を言っても詩にはなりません。詩は表現だからです。
石澤さんは、完全な両手の世界から右手の効かぬ不幸な世界にいます。
しかし「ずっとお休みしている」とユーモアでしのぎ、「元気いっぱいの左手があるよ」と生に向かいます。
感謝とあいさつです。「生きる知恵」の詩です。
審査員特別賞
- 作者 吉原 綾乃さん
- 作品 動物と自然の声
さやさや流れる
森や草花の音がある
トントントントン いい音だ
寄って見たらキツツキさんが
巣穴を作っているよ
太陽がさんさんさらさら
さーさー川が流れるよ
魚がぴちょんと動くよ
見てよ!
周りにくまさんヘビさんが寄って来たよ
あれ?雨が降って来たよ!
みんな森に入れー
一緒に晴れるように
願いましょうー♪
あれ~?まだ曇ってるなぁ~
みんなの明るい気持ちを集めて
もう一度願いましょう♪あれ?晴れたよ!
小さなうさぎやりすが見ているよ
ほらほらこっちにおいでよ
楽しい楽しいパーティーの始まりだ - 審査員コメント
主張ばかりの詩が多いですが、「受容」が重要です。
感覚がすごく大切です。一本の樹になってみることです。
いろんな音が聞こえ、姿が見えるでしょう。
吉原さんの詩はそれらをみごとに捉えています。
擬音語、擬態語が効果を上げています。
短編のアニメのような動きがすてきです。
最後の二行に作者の呼びかけがこめられ、よくまとめています。