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第22回障害者芸術文化祭(文芸部門)の作品
文芸作品は、短歌25作品、俳句12作品、川柳29作品、自由詩30作品もの応募がありました。
いずれも、作者の皆さんの思いが込められた素晴らしい作品ばかりです。
入賞作品は下記をご覧下さい。
短歌部門
県知事賞
- 作者 越後 浪人
- 作品 湯の酸に 泣かされ急ぎ 上がりたる 会津懐かし 硫酸塩の湯
- 審査員コメント
温泉の湯が強い酸性で、長くつかることができなかったのですが、その体験を「会津懐かし」と詠んだところがとても良いのです。結句(五七五七七の最後の七)で「硫酸塩の湯」と出したのがとても上手な処理です。秀歌と言えます。
審査員特別賞
- 作者 佐藤 寧治
- 作品 小雨降る 児童が走り ランドセル揺れ 熊除け鈴が リンリン響く
- 審査員コメント
児童(小学生でしょう)がランドセルに熊よけの鈴を付けているところがまず目に付きます。どこにでもあることではなく、この特殊性が歌に厚みを与えています。「ランドセル揺れ」は字余り(破調)ですがほとんど気になりません。生き生きした秀作となっています。
俳句部門
県知事賞
- 作者 坂上 香代子
- 作品 限りある 命詩うか 蝉しぐれ
- 審査員コメント
夏の蝉の声を聞いた作者は、その感慨を句にしました。「蝉しぐれ」はしきりに鳴く蝉の声を、秋の終わり頃の降ったりやんだりする雨(時雨)にたとえた表現です。作者はその蝉の声を聞いて、短い蝉の命をふと思いました。それを「限りある命詩うか」と作者の気持を大変上手く表現した、素晴らしい一句となりました。
審査員特別賞
- 作者 椎 カヨ子
- 作品 車椅子も 盲導犬も 春野かな
- 審査員コメント
身体が不自由な方にも、目の不自由な方にも春が来ました。その喜びを、人間ではなく、車椅子や盲導犬に託した珍しい俳句にしました。人間社会と違って、大自然は分け隔てなく迎えてくれます。そして、春野は素晴らしいなあという作者の感動を「春野かな」の「かな」で表現された素晴らしい句となりました。
川柳部門
県知事賞
- 作者 悠歩
- 作品 肩の荷を おろしてさびしい 子の自立
- 審査員コメント
本年の県知事賞には、悠歩さん作品の「肩の荷を おろしてさびしい 子の自立」を選びました。とても素直に読み手に気持が伝わる作品になっています。子どもさんの自立後ですがさて、どうされますでしょうか。何か新しい趣味を見つけるも良し、この川柳を本格的にやるのも良いでしょう。おめでとうございます。
審査員特別賞
- 作者 丸田 千恵子
- 作品 胃ぶくろに 相談しつつ ケーキ買う
- 審査員コメント
特別賞には、丸田千恵子さんの作品で「胃ぶくろに 相談しつつ ケーキ買う」を選びました。いわゆる甘味とか、デザートは別腹と言うらしいですね。その別腹の部分を良く五七五にまとめ表現されました。特別賞おめでとうございます。
自由詩
県知事賞
- 作者 およよ
- 題名 世界に君が現れた日
- 作品
熱いとけそうな歩道 職場の女の子とすれ違う 近所か いままで見た記憶がない 見るまでこの世界不在説 似た話 恋人も30年前からご近所 出会うまで知らぬ人 5分の即席距離 彼の家と私の家 セイを受けた時の差 長い知らぬ人時間 道すれ違ってた? ある日 鳴ったタイマー 彼とサイトで知り合った 近所? 死ぬまで忘れられなさそう圧 悩んだ 悩んだ 急にいなくなるんだもの、いなくならないでよ……! よく見かける空色の車が近くて遠くなった現実の 過去と現在を行き交う みえないままの登場人物 時の変化 世界に君が現れた 意味? 人間は意味を探す 何が変わったかは知らない 恋をした人、それだけ みえてる世界とみえていなかった世界 路線で区切られた空 路線で繋がる終着駅 出会いにリセットがあるなら お互いが この世から旅立った日 - 審査員コメント
恋愛したことそして失って苦しんだ心情を、“存在”について考察するという切り口で深め発展させて読み応えのある詩になっています。表現もよく工夫され、巧いと思いました。これからもたくさん書いていって下さい。
審査員特別賞
- 作者 Rei Shoji
- 題名 思い出す、やさしい鬼ごっこ
- 作品
学校の隅の会談に座り込んで秒針を数える。 早く早く、時間よ過ぎ去れ、と。鬼ごっこが嫌いだ。走るのが非常に遅く体力がない私にとって苦行でしかない。それでも仲間外れが怖くて、優しい子からの誘いは少しうれしくも感じてしまう。優しい子が皆に言う。可哀想だからこの子は捕まえちゃだめ、鬼の役も可哀想だよ、と。皆が苦笑いで了承する中、険しい顔をした一人が「馬鹿じゃないの」とポツリ。ルールを破綻させるのだから、まぁ申し訳なく思う。かくして私は何もしなくて良い透明人間。楽だ。ラッキー。みじめだ。優しさが嬉しい。虚しい。睨んでくる子が怖い。皆、本当は呆れてる。私はここにいない方が良いな。だから誰も来ない階段の、下の階からは見えない死角に逃げ込んだ。はぁ、静かだ。楽だ。みじめだ。寂しい。独り、座り込んで秒針を数える。チクタクチクタク。早く、早く、時間よ過ぎろ。早く早く、ここから、私なんて、消えてなくなればいいのに。 - 審査員コメント
子どもの頃の苦手な鬼ごっことその時の自分の気持ちを素直に丁寧に表現していて、情景や複雑で繊細な心情が大変良く伝わってきます。改行等の工夫をすれば、更に良い詩作品になるでしょう。自分の中の“子ども”を大切に、これからも書いていって下さい。