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【農業技術・経営情報】果樹:日本なしの「ジョイント栽培」による、早期成園化、省力化、低コスト化の推進
平成25~26年度産地技術導入支援事業(新技術導入広域推進事業)
担当:大村 宏和
協力機関:新潟農業普及指導センター
三条農業普及指導センター
佐渡農業普及指導センター羽茂分室
1 課題を取り上げた理由
日本なしの「ジョイント栽培」については、早期成園化、省力化、低コスト化が期待できることから、全国的に導入が進んでいる。本県においても、日本なし栽培においては、収益性の低下、高樹齢化、樹勢低下による「枯死」が発生しており、「ジョイント栽培」による円滑な樹体更新が期待される。「ジョイント栽培」は苗木の育成が技術のカギとなっているが、予備的に取り組んだ農家においては、苗木の生育量を十分確保できていない状況である。
このため、前年に引き続き革新支援担当、普及指導センターが中心となり、本技術の開発主体である神奈川県農業技術センターや園芸研究センター等と連携し、「ジョイント栽培」の技術習得を目的として、実証・展示、現地検討会の開催等を通じて、県全域への早期の導入及び普及、定着を推進する。
2 実証(調査)活動の期間及び方法
(1)実証ほの設置期間
平成26年4月~11月
(2)実証課題
新潟:ハウス利用による苗木養成の実証
三条:ジョイント後の早期成園化に向けた栽培実証
佐渡:「新美月」「新王」のジョイント栽培用苗木育成の実証
(3)調査内容
ア ジョイント用苗木の生育状況:新梢長、主幹径、ジョイント苗木育成率
イ 作業性:かん水、施肥、移植及び定植、ほ場への移動、誘引等の作業時間
ウ ジョイント後の生育状況、作業性
3 実証(調査)等の結果概要
(1)新潟農業普及指導センター実証結果
ア 大型の鉄骨ハウスを利用したが、軒高が3mと低く、サイドに近い苗木では天井のビニールに到達したものもあった。また、降雨の影響が無いため、アブラムシ類やハダニ類が早くから発生し、薬剤散布を実施しても抑制できなかった。
イ 苗木の生育は調査結果から、いずれの品種も10月まで1度も途中で新梢停止しなかったものが良好だった。新梢長は生育の良い順から、豊水、新高、幸水、秋麗となり(図1)、豊水では全体の80%が400cm以上となった(図2)。
ウ 使用した培土による生育差はほとんど見られなかった(図3)。
図1 品種ごとの新梢長の経時的変化
図2 品種ごとの苗木全長割合
図3 培土の違いによる新梢長の経時的変化
(2)三条農業普及指導センター実証結果
ア ジョイント苗木(幸水)の生態は催芽期3月26日、展葉期4月16日、新梢停止期7月17日、落葉期11月13日だった。
イ 前年に苗養成した100本を株間2m、列間3mで定植し、4月8日に接ぎ木を行った。この時点でジョイントできたのは32本であった。4月にジョイントできなかったものは、新梢伸長後の8月6日に36本ジョイントを行った。定植1年目で接ぎ木できたものは68%だったが、活着率は100%だった。
ウ 主幹部の太さは、4月で14.1mmが11月には21.3mmと7.2mm太くなった。接ぎ木部の先の主枝は、4月で14.5mmが11月で20.5mmと6.0mm太くなった(表1)。
調査日 | 主枝径(mm) | ||
---|---|---|---|
接ぎ木手前 | 接ぎ木後 | 先端 | |
4月25日 | 14.1 | 14.5 | ― |
11月12日 | 21.3 | 20.5 | 12.0 |
肥大量 | 7.2 | 6.0 | ― |
エ 新梢は5月下旬までは順調に伸長したが、その後あまり伸びず最終的に約38cmとなった(図4)。
図4 新梢長の経時的変化(幸水)
オ 主枝当たり(棚面)の芽数は、芽かき前で37.6、芽かき後で25.2であった。そのうち10cm以上伸びた新梢は12.8本で、ほぼ半分は10cm以下であった(表2)。
主枝長(cm) | 芽かき前 | 4月25日 | 8月25日 | 10cm以上枝数 | 平均的な枝長(cm) |
---|---|---|---|---|---|
185.8 | 37.6 | 24.8 | 25.2 | 12.8 | 21.2 |
カ 施肥は、定植後に配合肥料を1株当たり100g施用した。
キ 1年目の作業時間は、接ぎ木が一番多く全体の4割を占めた。次いで防除、芽かき、バンドの締め直しとなった。バンドの締め直しは、遅れると非常に手間がかかるので注意が必要だった(表3)。
項目 | 時間(hr) | |
---|---|---|
かん水 | 0.0 | 0.0% |
誘引 | 7.3 | 10.9% |
施肥 | 1.0 | 1.5% |
防除 | 10.0 | 14.8% |
芽かき | 10.0 | 14.8% |
摘心 | 0.8 | 1.1% |
除草 | 1.5 | 2.2% |
接ぎ木 | 29.0 | 42.9% |
バンド巻き直し | 8.0 | 11.8% |
計 | 67.6 | 100.0% |
(3)佐渡農業普及指導センターの実証結果
ア 新梢は初期伸長は新美月が良好であったが、その後の伸長は新王の方がよかった(図5)。また、両品種とも前年の生育の良、不良(図6で前年生育不良は「新美月短」、「新王短」、前年生育良は「新美月長」、「新王長」)による伸長量に大差は見られず、新美月は前年生育不良区の新梢伸長がやや良かった。
図5 品種別、苗木の長さ別樹高の推移
イ ジョイント可能な330cmの到達は新王は7月中に100%に達したが、新美月は80%程度で停滞した。最終的なジョイント苗育成率は新王100%、新美月79%となった(表4、図6)
表4 品種別ジョイント可能樹高到達状況(樹高3.3m到達状況)
図6 品種別ジョイント可能な樹高への到達率
4 活動成果と考察
(1) ジョイント仕立て栽培において、2普及指導センターでの実証により、マニュアルどおりの管理で「苗木養成」が十分可能であることが再確認できた。
(2) ハウスを利用して苗木養成を行う場合、新梢先端部がハダニ類等の害虫被害により伸長が停止する可能性が高く、新梢先端部が停止しないよう管理には細心の注意を払う必要がある。
また、ハウス内では作業スペースが限られるので、効率よく作業を行うための配置等にも注意する。
(3) ジョイント苗木育苗後の生育は1カ所のみの調査だったが、ほ場移植時にジョイントできなくても8月に緑枝接ぎとすることでジョイントできることが確認された。ただし、8月時点でジョイントできないものもあるため、ほ場での植栽間隔を考慮した上で苗木の長さをどの程度にするのか検討する必要がある。
5 今後の課題
(1)ほ場条件に合ったジョイント苗木植栽間隔の検討と側枝候補の育成
(2)ジョイント栽培技術の速やかな普及