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【農業技術・経営情報】農業経営:決算書を「作る」から「読み取る」取組へ!
米価低迷の常態化や米の直接支払交付金の減額など、稲作経営を取り巻く環境が厳しくなっています。経営状況が不安定な今だからこそ、継続的な経営改善に取り組むことが重要です。経営改善は、経営データを整理して分析することから始まります。単に税務申告のためだけに簿記記帳がなされているレベルであれば、経営管理を行っているとは言えません。
決算書は、経営の現状把握や目標・計画設定に重要な情報を提供してくれる貴重な資料となります。経営発展に向けた計画づくりに、これまでの経営データを活用してみませんか。
1 貸借対照表と損益計算書の関係
貸借対照表は、一定時点の財政状態(投じた資本の内訳)を明らかにしたもので、損益計算書は、一定期間の経営成績を明らかにしたものです。図は財務諸表とお金の流れを表したものですが、(1)資金を誰から、どのように調達し(純資産・負債)、(2)その資金をどのように運用し(資産)、(3)売上・収入を上げるために何を使い(費用)、(4)その結果、売上や利益がどのようになったかということになります。
図 財務諸表(貸借対照表・損益計算書)とお金の流れ
2 財務分析の進め方
さて、それでは決算書を活用した財務分析とは、どのように進めれば良いのでしょうか。
貸借対照表や損益計算書などの決算書を基に、その経営実績について分析し、財務内容および収益面の状況を把握します。財務分析には、年次間比較〔過去の自分との比較〕、経営間比較〔他者との比較〕、指標との比較〔各種経営指標との比較〕などがありますが、通常はいくつかの方法を組み合わせて行います。
(1)資産、負債、純資産、売上、売上原価、営業利益、経常利益等の年次間比較を行い、増減額の大きい項目に着目する | (2)大きく変動した理由は何か、改善すべき内容かを考える | (3)改善するにはどうすれば良いかを考える |
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○表1では、固定資産と固定負債が特に増加 ○表2では、売上全体は伸びているものの、農産物売上は減少し、加工品売上が増加。また、売上原価が増加し、営業利益は減少、経常利益は交付金の減額などにより、大きく減少 |
○固定負債は機械取得のため長期借入をしたために増加 ○また、機械取得にあたって、農業経営基盤強化準備金を取り崩し、圧縮記帳(表2) ○売上原価の増加は、表3より、農薬費の増額が大きい。その内訳は、除草剤の追加散布と判明 |
○作業指示の不徹底から、中期除草剤散布を余儀なくされた。作業マニュアルの作成とミーティングの徹底を行い、無駄なコストを削減 ○加工品の売上げが堅調に増加していることから、加工部門の拡大にむけた行動計画と数値計画を作成する |
(1)年次間比較
決算書(貸借対照表、損益計算書、製造原価報告書)に記載されている勘定科目の数値について、直近年と過去とを比較します(比較貸借対照表、比較損益計算書、比較製造原価報告書を作成)。通常は3年~5年分のデータから傾向を判断します(ここでは、2カ年分のデータで比較、表1、2、3参照)。
※増減額の多い勘定科目のみ抜粋
(2)指標との比較
指標比較分析は、(1)収益性分析、(2)生産性分析、(3)安全性分析(流動性分析)、(4)成長性分析がありますが、ここでは、収益性と安全性を中心に説明します(表4参照)。
※目安は稲作を主体とした法人経営における参考値です。栽培作目によって目安は異なります。
【収益性分析から読み取れる事項】
売上高総利益率は7.39%と低く、売上高営業利益率、売上高経常利益率も前年よりも悪化しています。
交付金等の営業外収益は将来的に不透明であることから、売上そのものを上げるか、または売上原価を下げ、収益性を向上させる必要があります。
【安全性分析から読み取れる事項】
指標値(目安)との比較では、いずれの項目も良好であり、安全性は高いと言えます。ただし、農産物価格の低迷や交付金の減額を考慮し、継続的に利益を上げていくためにも、さらなる売上拡大方策を講じていく必要があります。
例を参考に決算書の年次比較と指標比較による財務分析を簡単に解説しましたが、是非、決算書から財務分析を行って、次期の計画づくりに反映させましょう!
【経営普及課 農業革新支援担当 原田 惇】