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【農業技術・経営情報】病害虫:新潟県で発生する水稲主要病害虫の見分け方
この資料は「新潟県病害虫防除所」が研修用に作成したものです。
■いもち病<糸状菌>
- 菌は感染種子、被害わら・籾で越冬し一次伝染源に。
- イネのあらゆる部位に感染。育苗期や置苗の発病は、本田の感染源になり易い。
- 6月下旬頃から気温・湿度条件が揃い、葉いもちが発生し始める。降雨(葉面のぬれ)は発病を助長する。
- 葉の病斑が主な感染源となって穂いもちが発生する。
【被害】
葉発病が著しいと萎凋・枯死(ずり込み)。出穂期から止葉葉節、籾、ミゴ、穂くび、枝梗、節などが侵され、早期の感染ほど白穂や不稔粒が増加し、収量・品質が低下する。
□いもち病:コシヒカリBLについて
◆コシヒカリBL
いもち病に弱い従来型コシヒカリを品種改良していもち病に罹り難い性質(真性抵抗性)を持った系統を作り出したもの。コシヒカリBLの利用法は下記のとおり。
- 異なる抵抗性のBL品種を混合栽培し、感染を抑える。
- 効果安定のため、毎年いもち病菌のレースの変化を把握し(病斑を採集し、レース検定することが必要)、必要に応じBL品種の構成を変更する。
- 栽培者は、毎年種子更新する(混合済みの種子)。
■紋枯病<糸状菌:担子菌類>
- 前年土壌に落下した菌核が伝染源。
- 6月下旬頃に葉鞘に感染し病斑形成。しばらく株間・茎間の発病(水平進展)が進む。
- 幼穂形成期頃から上位葉鞘への発病(垂直進展)が進み、多発生で減収する。
- 前年多発ほ場、茎数過多、7・8月の高温多湿、早生・短稈多げつ品種、で多発生し易い。
【被害】
病斑は、6月下旬から収穫期まで葉鞘・葉身に発生。上位葉鞘に進展して枯れ上がることで減収被害となる。
■ごま葉枯病<糸状菌>
- 種子籾や被害わらで越冬し伝染源に。
- イネのあらゆる部位に感染。苗では葉鞘・葉身に発病するが通常問題とならない。
- 本田では、幼穂形成期頃から下葉に発病し、出穂期以降に急速に進展する。
- 葉病斑等から穂へ感染することにより穂枯れが生じる。
【被害】
出穂直後に籾が侵されると、紡錘~楕円形の斑点が生じた後、拡大して穂枯れ症状を示す。穂枯れにより稔実が阻害され、青米・茶米を発生させる。
◆ごま葉枯病といもち病の葉病斑の違い
◆いもち病:
<急性型病斑>
灰緑色~暗緑色水浸状の楕円形~菱形病斑。
<慢性型病斑>
褐色紡錘形で中央に灰白色部(崩壊部)、周囲に黄色部(中毒部)を伴う。葉脈上に病斑を貫いて伸びる褐色の線(え死線)有り。
◆ごま葉枯病:
当初、黒褐色のごま粒状、周囲に黄色の中毒部を伴う→ 後に灰褐色楕円形に拡大し、中央に黒褐色の輪紋を形成。
■イネドロオイムシ<コウチュウ目ハムシ科>
- カヤ等葉鞘内で成虫越冬。年1世代。4月頃越冬地から移動する。
- イネ移植後、成虫が水田内へ飛来侵入する(盛期:5月下旬~6月上旬頃)。
- 葉身上の卵塊から孵化した幼虫が葉を食害。湿潤気候で被害が増加し易い。
- 6月中旬頃から繭になり、6月下旬頃から新成虫が羽化。葉を食害後、越冬地へ移動する。
【被害】
幼虫がイネ葉身をカスリ状に食害する。著しい加害では、茎数が減少し穂数不足で減収する。
■イネミズゾウムシ<コウチュウ目ゾウムシ科>
- 周辺の林落葉下で成虫で越冬。年1世代。4月頃越冬地から移動する。
- イネ移植後、成虫が歩行又は飛来で水田侵入(5月下旬~6月上旬)。
- 成虫は葉を食害し、葉鞘に産卵。幼虫は地下へ移動し、根を食害する。
- 新成虫は8月頃羽化。イネ葉身を食害後、越冬地へ移動。
【被害】
成虫はイネ葉身、幼虫はイネ根を食害する。成・幼虫の加害により、イネの初期生育が抑制され、多被害の場合、茎数の減少、出穂の遅れ、穂数・籾数の減少により減収。
□イネゾウムシ:形態と被害
◆初期害虫被害の区別点
- イネドロオイムシ成虫:越冬後成虫が飛来して、葉面を食害。葉脈に沿って針で引っ掻いたような細長い白い筋を残す。
- イネドロオイムシ幼虫:葉面をかすり状に食害する。
- イネミズゾウムシ成虫:越冬後成虫が歩行又は飛行侵入して葉面を食害。約1mm幅のくっきりとした食痕を残す。
- イネゾウムシ成虫:葉鞘部を側面から口吻で加害する。その結果、展開した葉に横断する傷や孔が生じ、ちぎれることもある。
■ニカメイチュウ(ニカメイガ)<チョウ目メイガ科>
- 老齢幼虫越冬。年2世代。越冬幼虫は春に蛹化し、成虫は6月第1~3半旬に羽化。
- 第Ⅰ世代幼虫は、孵化後、イネ葉鞘に食入。葉鞘変色茎→芯枯茎へと被害が進む。
- 第Ⅰ世代成虫は、7月第6半旬~8月第2半旬に羽化し、産卵→幼虫発育は早い。
- 第Ⅱ世代幼虫はイネ収穫期後の刈株などで越冬。
【被害】
幼虫が葉鞘を加害。第Ⅰ世代幼虫はしん枯茎の多発で穂数減となり減収。第Ⅱ世代幼虫は早期加害で「白穂」を発生させ、遅い時期の加害でも登熟不良となる。
■コバネイナゴ<バッタ目バッタ科>
- 土中に卵塊で越冬。年1世代。代かき後、水に浮いた卵塊が畦際に吹き寄せられる。
- 畦際の卵塊は、乾燥条件で徐々に孵化する(盛期は6月下旬~7月上旬頃)。
- 幼虫は、齢が進むにつれて葉を食害しながら畦際から中央部へ分散する。
- 8月上旬頃から羽化が始まり、イネ収穫期後に稲株や畦土中に産卵。
【被害】
6月中下旬の水田侵入時は、畦畔際の株を加害。終齢幼虫・成虫は上位葉を食害し、登熟歩合・千粒重が低下。
■セジロウンカ<カメムシ目ウンカ科>
- 九州以北では越冬できない。成虫が梅雨期に(6月下旬~7月上旬頃から)海外飛来する(長距離飛来性害虫)。
- 飛来成虫はイネ葉鞘に産卵。幼虫はイネに寄生し成長。次世代成虫が羽化するまでの期間は20~25日。
- 成幼虫はイネ葉身・葉鞘を吸汁・加害する。水田内で1~2世代を経過する。
【被害】
成幼虫ともイネを吸汁・加害する。多発生すると排泄物にすす病を併発し光合成阻害。7月下旬~8月中旬に高密度になり易く、出穂期~登熟期の多発生が不稔や登熟不良を引き起こし、減収させる。
◆セジロウンカ・ヒメトビウンカの区別
■ツマグロヨコバイ<カメムシ目ウンカ科>
- 4~5齢幼虫がイネ科越年性雑草で越冬。年4世代。
- 積雪が少なく、夏季高温の年に多発生し易い。8月中旬以降に急増する場合が多い。
- 成幼虫ともにイネを吸汁加害し、すす病を発生させ、登熟を阻害する。
- イネ萎縮病の媒介虫だが、県内の本病害被害の事例はない。
【被害】
8月中旬以降、高密度に発生すると、吸汁害によりイネは葉先から黄色変色する。また、高湿度条件ですす病が発生して光合成が阻害され、登熟不良で減収する。
■斑点米カメムシ類<カメムシ目>
【被害】
数種のカメムシは、登熟中の稲穂を吸汁加害する。玄米の加害部分に雑菌が繁殖して斑点状に褐変する(=斑点米)。斑点米が混入することで、品質の低下(農作物検査の格落ち)が発生する。・検査規格による混入上限は、1等:千粒中1粒、2等:同3粒、3等:同7粒。7粒を越えると規格外。
【発生生態】
斑点米カメムシはいくつかのグループ(科)に渡っており、種類によって生態は異なる。
【発生予察】
すくい取り調査:6/後~8/後のすくい取り。
主要斑点米カメムシ
(1)オオトゲシラホシカメムシ
- 年2世代発生する。成虫で越冬。
- 多種類の雑草(種子)を好む。
- 水田には畦畔から歩行で侵入。
- 水田内でも増殖する。
オオトゲシラホシカメムシ
(2)アカヒゲホソミドリカスミカメ
- 年5世代発生する。卵で越冬。
- イネ科の雑草(穂・葉)を好む。
- 水田には近くから飛来して侵入。
- 水田内でも増殖する。
アカヒゲホソミドリカスミカメ
(3)アカスジカスミカメ
- 年4世代発生する。卵で越冬。
- イネ科の雑草(穂)を好む。
- 水田には近くから飛来して侵入。
- 水田内(イネだけ)では増殖しない。但し、水田内雑草があれば話は別。
アカスジカスミカメ
(4)ホソハリカメムシ
- 年2世代(一部1世代)発生。成虫越冬。
- イネ科等の雑草(穂)を好む。
- 水田には飛行して侵入。
- 水田内でも増殖する。
ホソハリカメムシ
(5)クモヘリカメムシ
- 年2世代(一部1世代)発生。成虫越冬。
- イネ科等の雑草(穂)を好む。
- 水田には飛行して侵入。
- 水田内でも増殖する。
- 鈎合部加害主体(籾殻を貫通できない)。
クモヘリカメムシ
クモヘリカメムシの生活史(模式図)
注)推定も含む暫定的な図である。
□斑点米カメムシ類の予察調査
◆水田侵入前(畦畔等)と水田侵入後(水田内)を調査。
■イネカラバエ:形態と被害
■フタオビコヤガ(イネアオムシ)<チョウ目ヤガ科>
- 蛹越冬。年4世代。成虫盛期:<越冬世代> 5月上中旬、<Ⅰ> 6月中下旬、<Ⅱ>7月中旬頃、<Ⅲ> 8月中下旬。
- 幼虫はイネ葉身を食害する。若齢はかすり状に、中齢以降は葉縁から摂食する。
- 8月上中旬発生の第Ⅲ世代幼虫の被害が大きく、多発生すると収量へ影響する。
- 通風不良田、過繁茂・軟弱イネ、7月上旬~8月上旬の多雨(幼虫生存に好適)で多発生し易い。
【被害】
幼虫による葉の食害。第Ⅲ世代幼虫の加害は出穂期~登熟期にあたり、多発生すると稔実不良で減収する。
■調査の必需品