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「新之助」における適正平方メートル当り籾数及び出穂期葉色(SPAD値)に誘導するための穂肥診断法
「新之助」の草型は偏穂数型で生育過剰となりやすく、生育期間が長い晩生品種です。
食味・品質を確保するためには適正な生育に維持すること、登熟後半まで適正な栄養状態を保つことが重要です。
有機質割合50%肥料を用いた分施体系において、平方メートル当り籾数(28,000粒)・出穂期SPAD値(34~36) に誘導するための穂肥診断法の成果を紹介します。
分施体系において、
出穂期21~18日前に施用する1回目の穂肥は、幼穂形成期の草丈と葉色(SPAD値)の調査結果から判断します。
適正な平方メートル当り籾数28,000粒に誘導するためには、図に示す草丈と葉色(SPAD値)の交点の施肥窒素量をめやすにします。
幼穂形成期の理想生育相 草丈:62~68cm、茎数:580~630本/平方メートル、SPAD値:33~36
ただし、めやすは幼穂形成期の茎数が極端に多い場合や少ない場合を除いた300~750本/平方メートルの範囲で適用します。
幼穂形成期に生育調査を実施し、茎数が平方メートル当り300~750本の範囲内で、例えば、草丈64cm、葉色(SPAD値)35の場合は、10a当たり窒素成分1kgをめやすにします。
グラフ作成に用いた重回帰式(予測式)
平方メートル当り籾数(Y)は、幼穂形成期の草丈(X1)と幼穂形成期の葉色(X2)、穂肥1回目施肥窒素量(X3)による重回帰式から推定しました。
籾数に及ぼす影響は、幼穂形成期の草丈(X1)が最も大きく、穂肥1回目施肥窒素量(X3)、幼穂形成期の葉色(X2)の順でした。
N1kgで約1,500粒の籾数増加が見込まれます。
コシヒカリ 穂数と一穂籾数の補完作用が大きい。 穂数 少 ⇒ 一穂籾数 多
新之助は明確ではありません。 ⇒ 穂数が多くてもN栄養が良好であれば、一穂籾数が確保されます。
茎数が少ない場合でもN栄養が良好 ⇒ 有効茎歩合が高い
茎数が多い場合でも N栄養が不良 ⇒ 有効茎歩合が低い
茎数の多少が必ずしも穂数に結びつきません。
出穂期12~10日前に施用する2回目の穂肥は、穂肥施用時の葉色(SPAD値)から判断する。
適正な出穂期の葉色(SPAD値)34~36に誘導するためには、表の施肥窒素量をめやすにする。
表作成に用いた重回帰式(予測式)
出穂期の葉色(Y)は、穂肥2回目から出穂期までの平均気温(X1)と穂肥2回目施用時の葉色(X2)、穂肥2回目施肥窒素量(X3)による重回帰式から推定しました。
出穂期SPAD値に及ぼす影響は、穂肥2回目施肥窒素量(X3)が最も大きく、穂肥2回目施用時の葉色(X2)、穂肥2回目から出穂期までの平均気温(X1)の順でした。
N1kgで約1.2のSPAD値の上昇が見込まれます。
重回帰式に用いたデータは、H29~R元の3年間の調査結果です。
穂肥2回目から出穂期までの平均気温はそれぞれ27.5℃、27.1℃、29.5℃(3年間平均28.0℃)で平年より0.8~3.1℃(平均1.6℃)高い条件でした。
重回帰式を普及指導センターの気象感応調査データで検証ました。
平方メートル当り総籾数の平均推定値は27,500粒、実測値は26,600粒と900粒の差がありました。
重回帰式を普及指導センターの気象感応調査データで検証しました。
出穂期葉色の平均推定値は35.9、実測値は35.3と0.6の差がありました。
[導入効果]
平方メートル当り籾数及び出穂期葉色(SPAD値)を適正値に誘導することによって食味・品質の向上に寄与。
「食味・品質基準」適合100%を目指して活用。
[導入対象]
「新之助」研究会の生産者及び栽培指導者
[留意点]
1 本成果は平成29年~令和元年に作物研究センター(細粒質グライ土)において、基肥・穂肥とも有機質割合50%肥料を用いた分施体系の栽培試験(穂肥窒素量:0、1、2kg/10a施用)結果に基づいて作成しました。
2 幼穂形成期の茎数が298~765本/平方メートルの範囲では、平方メートル当り籾数に対する重回帰式の説明変数としての寄与率が低い(7.3%)ため、草丈と葉色(SPAD値)から推定しました。
茎数調査が不要なわけではありません。平方メートル当り籾数=穂数×一穂籾数
草丈と葉色が稲体の栄養状態の良否を示し、有効茎歩合や一穂籾数の良否に影響
結果として平方メートル当り籾数の多少に影響します(茎数の確保が必要)