本文
「新之助」の玄米タンパク質含有率の基準超過確率予測と基準超過米の刈分けのめやす
背景:「新之助」区分集荷・販売実施ガイドライン (平成27年) では、食味・品質基準の1項目として玄米タンパク質含有率の上限を6.3% (水分15%換算) と定めており、
集荷時適合検査に合格した米穀のみが「新之助」として販売されます。
→ 「新之助」の食味・品質基準の適合率は 98% まで上昇していますが、究極目標は食味・品質基準適合率 100% です。
目的:大区画水田の地力ムラや不均一施肥等に起因する基準超過米の混入を回避して集荷段階におけるさらなる米質向上を図るため、収穫前に玄米タンパク質含有率の基準超過確率を予測する手法を提供します。写真は生育ムラを再現した試験田です。
成果情報の使い方から説明します。
1 出穂後17~31日の任意時期の止葉SPAD値から、玄米タンパク質含有率が6.3%を超過する確率を予測します。
2 基準を超過する確率が95%以上と予測された場合は、当該水田あるいは水田内の当該範囲を収穫時に刈分け、基準適合米と区分します。
3 基準を超過する確率が5%以上95%未満と予測された場合は、出穂31日後に近い日取りで追加調査を行い、超過確率に応じて刈分けの要否を自主判断します。
4 基準を超過する確率が5%未満と予測された場合は、刈分けの必要はないと判断します。
例えば、出穂21日後に止葉のSPAD値が30だった場合、玄米タンパク質含有率が6.3%を超過する確率は5%に満たないため、刈分けの必要はないと判断できます。
例えば、出穂28日後に止葉のSPAD値が43だった場合、玄米タンパク質含有率が6.3%を超過する確率は95%以上と懸念されるため、当該水田あるいは水田内の当該範囲を刈分け、個別に玄米タンパク質含有率を検査し、必要に応じて基準適合米と区分します。
例えば穂25日後に止葉のSPAD値が38だった場合、基準を超過する確率が50%以上95%未満と予測されます。この時点で刈分けた方が良い判断できますが、出穂31日後に近い日取りで再調査を推奨します。再調査によっても超過確率が高いと判断された場合は、積極的に刈分けを行います。
養分の後効きしやすい圃場条件で発生しやすいパターンです。
例えば、出穂25日後に止葉のSPAD値が38だったとしても、出穂30日後の再測定によって超過確率の低下が見られた場合は、刈分けの必要性は低いと判断修正できます。
肥切れの良い圃場条件で発生しやすいパターンです。
2016-2019年度の「新之助」気象感応圃15地点における出穂25日後の止葉SPAD値 (n=60) をプロットしました。玄米タンパク質含有率が基準値を超過した事例はなく、本成果図による予測結果の妥当性を確認できました。なお、基準超過の懸念される事例が1例認められ、実際に玄米タンパク質含有率は適合範囲ではあるものの6.2%と高めの値でした。今後、同様の基準超過の懸念される事例が発生した場合は、出穂31日に近い日取りでのSPAD値再調査と、その結果に応じた刈分け判断をお願いします。
本成果の使い方と実用性評価についての解説は以上です。
ここからは、本成果を作出するために実施した試験の概要について解説します。
各試験区の連続10株以上の最長茎の止葉SPAD値を測定し (葉先から1/3付近で中肋を避けた表面)、その平均値を記録しました。
出穂10日後から38日後まで1週間毎に計5回調査しました (100区×5回)。
出穂31日後に得られた止葉SPAD値と精玄米タンパク質含有率の散布図に95%予測区間を図示しました。
95%予測区間に基づいて、精玄米タンパク質含有率が6.3%を超過する確率に対応するSPAD値を推定しました。
出穂31日後にSPAD値が40以上だと超過率95%以上、SPAD値が35-40だと50-95%、SPAD値が29-35だと5-50%、SPAD値が29未満だと5%以下、と推定されます。
出穂 17, 24日後についても同様の作図と計算を行い、成果図に統合しました。SPAD値の測定日以外は近似曲線で補完しました。
なお、出穂10日後のSPAD値は穂肥の影響などにより不安定なため、出穂38日後のSPAD値は止葉の枯れ込みや色抜けにより測定困難な場合があったため、予測可能範囲からは除外しました。
「新之助」栽培指針に推奨されていない圃場条件においては、本基準を適用できません。