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【GAPの取組事例紹介】有限会社 穂海農耕
農業未経験者だったからこそ
GAPへの取組が必要だと感じた
有限会社穂海農耕は、上越市板倉区にある水稲栽培を事業とする会社。グループ会社の株式会社穂海を通して、大手飲食チェーンや商社などへ業務用米を販売しています。
2007年に「穀物」で国内初のJGAP団体認証を、2017年にはAISIAGAP認証を取得。日本におけるGAPのパイオニアである代表取締役の丸田洋さんと取締役農場長の日比昇さんにお話を伺いました。
■有限会社穂海農耕・株式会社穂海<外部リンク>
上越市板倉区田屋104番地2
運用の仕組みを作るためにGAPを活用
「僕は工業系エンジニア、スキーリゾート勤務などを経て、全くの素人から農業に参入したんです。農業と言っても会社組織なので、きちんとした仕組みがないと困るなと感じて、会社設立と同時にJGAPに取り組みました」と丸田社長。
GAPの取組は、農産物の品質確保や環境への配慮につながるだけではなく、生産者の安全確保や農場経営にも役立ちます。同社ではGAPを導入したことで新規参入の段階で大手卸業者との契約が決まるなど販売面でのメリットも感じられたそうです。
従業員の多くが農業未経験、平均年齢はなんと32歳。労働力不足が課題となっている農業分野ですが、GAPによるルールづくりや環境整備は人材確保にもつながっているかもしれません。
きれいに整頓された作業スペース。
道具の形と名前が書かれたボードは新人教育にもつながっており、全体の作業効率アップに直結しているそう。
全ての根底にあるのは、今でも「整理整頓」
「GAPの取組で一番苦労するのは記録ですね」と、分厚いファイルに閉じられた作業記録を見せてくれたのは日比農場長。「肥料やり、草刈り、農薬散布などあらゆる作業において、どのほ場がどの作業段階なのかを全て記録しなければいけません」。
現在は、Web上のほ場管理ツールの開発パートナーとして、生産者の負担を減らすツール開発にも関わっています。
「導入当時も今も結局のところやっているのは整理整頓。社内ルールの一つとしてGAPを活用しているだけで、特別なことをしているという認識はないんです。机の上はきれいにしましょうっていうのと同じことですね」と笑う丸田社長。
一方で、ガントチャート(※)などを活用した計画的な栽培管理は、「業務用米」に特化したからこそ可能となった運営方法だとも言います。会社組織としての農場経営、GAPによる工程管理、戦略的な販路獲得などが積み重なり約150haを越える大規模な耕地面積を運用する会社に成長できたのです。
(※)プロジェクト管理や生産管理などで工程管理に用いられる表の一種。作業計画を視覚的に表現するために用いられる。
作業記録も更衣室もきれいに整頓されています。日比さんのデスク周りも整理整頓はバッチリ。
「?=3」を求められる難しさを乗り越えて
国内では先駆けてGAP認証を取得した同社。日本でなかなかGAPが普及しない理由についてこう分析します。
「GAPは海外で始まった取組だから、日本人の発想と合わない部分があるんだと思います。「1+2=?」は簡単なのに、「?=3」はどう答えていいか困る人が多いはず。この場合、「1+1+1」も「4−1」も「2+1」も正解。GAPも同じで、到達すべき状態になっていれば取組内容は農場によって千差万別でいいんです」。
GAP導入を検討している方もこの点が理解できれば、心理的ハードルが下がるのではないでしょうか。
最後に、丸田社長は「安全の中に安心はあるけど、安心の中に安全はないんです」と続けました。私たちは日頃、スーパーや直売所で “安心”して 商品を購入します。それは “安全”な食材が並んでいると認識しているからです。しかし、その“安全”はどのように作られているのか、生産者はもちろん消費者ももう少し気にしてみても良いのかもしれません。
2019年で創業14年を迎える同社。
経営規模が20倍以上に拡大した今も、農薬の誤使用や異物混入による食品事故は起きていません。
取材日 2019年1月21日