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【農業技術・経営情報】病害虫:多収穫米で発生が懸念される病害虫の対策
加工用、米粉用および飼料用向け水稲品種の多収穫栽培では、通常の栽培より多肥で栽培されます。多肥で栽培すると、イネの病原菌への抵抗力が低くなり、葉色が濃くなって害虫が集まりやすくなります。このため、病害虫による被害の発生が懸念されます。
ここでは多肥栽培で特に問題となりそうな病害虫を取り上げて、発生生態と防除対策のポイントを紹介します。
1 いもち病
いもち病は多肥栽培で発生が多くなる代表的な病害です。多肥栽培ではズリコミとなるような多発生となることも珍しくありません。いもち病菌は育苗期に感染した苗によりほ場に持ち込まれるため、種子消毒を徹底するとともに育苗期の感染を防止します。種子消毒剤のテクリードCフロアブルやモミガードC水和剤は、いもち病の他に苗立枯細菌病の登録もありますが、育苗期間中の葉いもちの感染を抑制することができないので、多肥栽培ではいもち病の育苗期感染防止に重点を置き、ベンレートT水和剤20で種子消毒を実施します。ベンレートT水和剤20は、苗立枯細菌病の登録がないものの、乾籾重量の1%湿粉衣処理や7.5倍液の3%塗抹を行うと、育苗期間中の葉いもち感染を抑制できます。また、籾がらや稲わらは、菌が生き残っていて伝染源となるので、育苗ハウス内やその周辺に置かないようにします。多肥栽培では発生リスクが高いため、これらの対策に加え葉いもちの予防粒剤を施用し、葉いもちの発生状況に合わせて穂いもちの防除を実施します。
2 紋枯病
紋枯病は、多肥栽培で茎数が多く過繁茂となったイネで多発生しやすくなります。前年に発病したイネで作られた菌核がほ場に残り伝染源となって発病するため、前年多発生したほ場では特に注意が必要です。6月下旬頃から株元の葉鞘に図1のような病斑を形成します。発病株での被害は、病斑が株の上位に形成されるほど大きくなります。ほ場全体の被害は、発病株数が多く、高い位置に病斑が形成されるほど大きくなります。
粉剤、液剤による防除は、1回散布の場合は出穂期の10日前頃~出穂の直前に、2回散布の場合は出穂期の10日前頃~出穂の直前と穂揃い期に散布します。前年の発生が多いほ場では、粒剤の育苗箱処理や水面施用での防除を実施します。
図1 紋枯病の病斑
3 ニカメイチュウ
多収性品種は茎が太い品種が多く、幼虫が茎の中を食害するニカメイチュウが発生しやすいため、注意が必要です。
図2 ニカメイチュウの発生消長(水稲栽培指針、平成23年新潟県農林水産部より)
図2のように年2回発生します。第1世代幼虫はまず葉鞘部を食害し「葉鞘変色茎」と呼ばれる被害症状を示し、その後、茎に食入し「しん枯茎」になります。防除効果は第2世代より第1世代で高いので、6月中旬頃から発生する第1世代幼虫を重点的に防除します。
防除は、成虫の飛来量が最も多くなる時期(発蛾最盛期)を基準に、粉剤・液剤は発蛾最盛期の15~20日後(6月下旬頃)、水面施用粒剤は発蛾最盛期の7~10日後頃に散布します。農作物病害虫雑草防除指針には防除要否を判断するための「防除のめやす」が掲載されています。しかし、茎が太い多収性品種では増殖率が高く、防除が不要とされている発生量でも被害が発生する場合があり、「防除のめやす」を使うことはできないので注意が必要です。
4 イネツトムシ
葉色の濃いイネや過繁茂で軟弱に育ったイネを好むため、多肥栽培で多発する傾向があります。幼虫が7月下旬頃~8月上旬頃に発生し、数葉または数茎の葉を綴り合わせて図3のようなツトを作ります。多発生した場合は、田一面の葉が綴り合わされ、葉の中肋と穂だけが残ることもあります。
殺虫剤による防除は幼虫の孵化初期である7月下旬頃~8月上旬頃が適期です。幼虫が発育してからでは防除効果があがりにくいので、多被害が予想される場合は、早めの防除が必要です。
図3 イネツトムシによる被害
5 コブノメイガ
イネツトムシと同様に、葉色の濃いイネや過繁茂で軟弱に育ったイネを好むため、多肥栽培で多発する傾向があります。成虫の飛来・産卵により発生した幼虫がイネを加害します。初飛来の約1ヶ月後に発生する第2世代幼虫による加害が問題となります。幼虫は葉の両縁をタテに綴り合わせて内側を食害し、次々に新しい葉に移って食害を続けるため、多発生すると図4のように水田全面が真白となります。
殺虫剤による防除は、加害初期である7月下旬~8月上旬に行います。
図4 コブノメイガによる葉の食害
多収を目指す栽培であっても品種の能力を超えるような施肥を行うと、施肥が無駄になり、病害虫の発生リスクも高まります。そのため、品種特性および地力に応じた施肥を行うことが大切です。また、ここで紹介した以外の病害虫が多発生することもあるので、ほ場を観察して病害虫の発生状況を把握するように努めてください。
※本文に記載された農薬は、平成26年5月1日現在の農薬登録情報を基に作成しています。農薬の使用に際しては、必ず最新の登録内容を確認して使用してください。
【経営普及課 農業革新支援担当(病害虫) 石川 浩司】