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【農業技術・経営情報】病害虫:紋枯病の防除対策
紋枯病は短稈・多げつ品種や多肥栽培で茎数が多く過繁茂となったイネで多発生しやすいため、通常の栽培より多肥で栽培される加工用、米粉用および飼料用向け水稲品種の多収穫栽培での被害が懸念されています。ここでは紋枯病の防除対策のポイントを紹介します。
1 紋枯病の発生生態
紋枯病は、前年に発病した株の病斑で作られた菌核がほ場で越冬してその年の伝染源になります。越冬した菌核は代かき作業を行うと水面に浮上し、イネ株の葉鞘に付着します。春先はまだ温度が低いため菌核は発芽しませんが、6月下旬頃になり発芽できる温度になると発芽・感染して下位の葉鞘に病斑を作ります。菌核を伝染源とした感染の他に、発病したイネ株を伝染源とした周囲の株への感染もあり発病株が増加します。
また、発病した株では病斑が徐々に上位の葉鞘に進展していきます。やがて、病斑の表面に菌核が形成され、収穫前に地上に落下したり、収穫時に稲わらと一緒にほ場に落下します。
紋枯病
2 紋枯病の被害
発病株では病斑が上位に進展するほど収量が減少し、千粒重が小さくなり、粒厚2.1mm以上の粒や良質粒の割合が減少します。また、ほ場で発病株が多くなるほど被害が多くなります。
無防除では止葉葉鞘まで病斑が進展することが多く、このような場合に減収率が5%となる成熟期頃の発病株率は30%程度なので、これを超えると予測される場合に防除が必要になります。
3 薬剤防除
防除薬剤には、発病する前に予防的に散布し主に発病株を少なくすることで被害を軽減する粒剤と、発病を確認してから散布し主に病斑の上位への進展を抑え被害を軽減する粉・液剤があります。
(図)紋枯病無防除ほ場における紋枯病の発病推移
(農業総合研究所作物研究センター、平成元年~平成17年)
図は無防除ほ場における新潟早生またはこしいぶきの発病推移で、1本の線が1年分の発病推移を示しています。発病株率は年次による変動が大きいですが、病斑高率(草丈に対する「株の中で最も高い位置にある病斑の高さ」の割合)は年次による変動が少ないことがわかります。このため、防除を実施していないほ場で紋枯病の被害がどの程度になるかは発病株率の影響を大きく受けます。また、防除を実施する7月~8月初旬の発病株率から成熟期の発病程度を予測することが出来るので、発病株率を調べて防除が必要かどうかの判断が可能です。
粉・液剤で防除を行う場合、防除のめやす(第1表)を活用します。各時期にほ場の発病株率を調査して、発病株率が防除のめやす以上なら防除を行い、それ未満であれば次の調査時期に改めて調査して防除要否を判断します。防除が必要なほど発病しているほ場では、防除時期が遅くなるほど粉・液剤による防除の効果は低くなってしまいます(第2表)。これは、防除を実施するまでの間に病斑が上位に進展したり、発病株から周辺の株に伝染し発病株が増えてしまうためです。このため、ほ場の発病状況を観察し防除が遅れないよう注意します。
粒剤は発生前に予防的に散布するため、防除のめやすを利用することは出来ません。前年に多発生したほ場、発病しやすい品種、多肥栽培など、事前に多発生が予想される場合に使用します。
調査時期 | 防除のめやす | 防除時期 |
---|---|---|
(1) 7月10日頃 | 発病株率 8%以上・・・2回散布 発病株率 8%未満・・・(2)で調査する |
穂ばらみ期、穂揃い期 注2) |
(2) 7月20日頃 | 発病株率 10%以上・・・1回散布 発病株率 10%未満・・・(3)で調査する |
出穂期直前~出穂期 注2) |
(3) 7月末~8月初旬 | 発病株率 20%以上・・・1回散布 発病株率 20%未満・・・防除不要 |
出穂期~穂揃い期 注2) |
(4) 8月末~9月上旬 | 防除対応の効果を確認するために発病株率と病斑高率を必ず調査し、被害度を算出する。 |
注1) このめやすは、ほ場単位での防除要否の判断にも活用できる。
注2) 新之助などの晩生品種においては上記と防除適期が異なる。
調査時期(1)、(2)にめやすを超える発病があった場合は、直ちに防除を実施する。
調査時期(3)にめやすを超える発病があった場合は、出穂期直前~出穂期に防除を実施する。
散布時期 | 被害度 | 防除価 |
---|---|---|
出穂7日前 | 6.9 | 91.1 |
出穂期 | 28.6 | 63.0 |
出穂7日後 | 42.9 | 44.6 |
無散布 | 77.4 | ― |
【経営普及課 農業革新支援担当(病害虫) 石川 浩司】