本文
【農業技術・経営情報】病害虫:水稲における病害虫の調査~発生程度や発生推移を把握するための調査~
病害虫の発生は減収や品質の低下を引き起こす場合があります。そのため、ほ場でどんな病害虫がどのくらい発生しているかを把握し、病害虫の生態や気象予報などから、この先被害が発生するかを判断し、必要に応じて薬剤防除などの対策を行います。
県全体や地域における病害虫の発生が平年に比べ多いか少ないかは、県の病害虫防除所や農業改良普及センター、JAなどから情報が提供されています。しかし、病害虫の発生は、年次や地域だけでなくほ場によっても異なるので、最終的には自分のほ場の状況を確認して、防除が必要なのか判断する必要があります。
ほ場を観察するだけでは、病害虫が「出ている・出ていない」とか、去年や前回に比べ「多い・少ない」など漠然としたものになってしまいます。しかし、基準に従って調査を行うと発生程度を客観的に評価できるようになります。定期的に病害虫の発生状況を調査し、発生の推移を把握します。何年か調査を続けると、その年の発病程度がどれくらいなのかや自分のほ場でどんな病害虫が発生し、どれが問題となるか判断できます。
1 調査時期
調査時期を決めて行なった方が比較しやすいため、病害虫防除所などでは5月下旬~9月上旬まで、各月の前半(5~10日)と後半(20~25日)に調査を行なっています。
2 調査株の選び方
1ほ場あたり25株について調査します。病害虫の発生量はほ場内の場所によって異なる場合があるため、調査は連続した株ではなく一定の範囲から万遍なく選びます。
図1 調査圃場における基準株と調査株25株の選定
病害虫防除所などでは、図1のように調査株を決めています。まず、ほ場の一角(畦畔から4条目の枕地を除いた場所)の1株を基準株に決めます。基準株を含め15株おきに5株を調査したら、6条移動して同じように5株を調査し、これを25株になるまで繰り返します。時期によって調査株がかわってもかまいわないので、基準株は調査の都度選びます。
3 病害虫の調査法
調査株について、病気の発病や被害の程度を調査したり、株上の虫の数を数えます。また、25株調査の他に、捕虫網によるすくい取り調査を行います。
(1)発病度、被害度の調査
ある病気の発病程度を調査する場合、株あたりの病斑数を調べれば正確に発病程度を把握できますが、調査に時間がかかってしまいます。そこで、病害虫の調査では、あらかじめ決めておいた発病程度や被害程度で調査株を評価し、それを集計して発病度や被害度を求めることで、調査の効率化を図っています。
<葉いもち調査の例>
ア 調査株を観察して下記の調査基準のどれが当てはまるか判断します。
A:発病なし
B:病斑が下葉だけに発生(病斑面積率 0.5%程度)
C:病斑が上位葉まで少し発生(同2%程度)
D:病斑が上位葉に多発生又は軽度のズリコミ(同10%程度)
E:ズリコミ(同50%以上)
イ 下記の計算式で発病度を算出します。
発病度=(1×B+2×C+3×D+4×E)/(4×25)×100
B~Eは各調査基準に該当した調査株の株数
(2)すくい取り調査
イネ株上に生息・寄生する害虫類の発生密度を把握するための調査方法で、一部の害虫では防除要否の判定にも利用されています。捕虫網があればどこでも実施できる簡便な方法ですが、対象害虫の性質や天候・ほ場条件等によって捕獲効率(生息する虫数に対して実際にすくい取られた虫数の比率)が変動してしまいます。安定した結果を得るためには、調査方法・手順を統一して行うことが必要です。
ア 調査用具・調査手順
(ア)捕虫網は、長さ1mの柄に、直径36cmのナイロン製ネットを装着したものを使用します。
(イ)水田内の中央部ですくい取りを行います。
(下記「すくい取りのやり方」参照)
(ウ)すくい取りにより捕獲した害虫は、ネットを軽く振ってネット袋の底部に虫を集めてからネットを絞り、ネットごと毒壺(殺虫剤として酢酸エチルなどを使用)等に入れて殺虫します。市販の殺虫スプレーは、微小な虫の判定がしにくくなるので使用しません。
(エ)殺虫後、バットなどにあけて害虫の種類ごとに捕獲虫数(必要に応じ、幼虫・成虫別、雌雄別)に計数します。集計は、すくい取り回数当たり捕獲虫数(例:20回振り当たりすくい取り数)で記録します。
イ すくい取りのやり方
(ア)ほ場内の調査位置
水田内の中央部をほ場の長辺方向に(条に沿って)進みながらすくい取りを行います。ただし、畦畔際の密度が高い歩行性のカメムシ類など対象とする害虫によっては畦畔際を調査する場合があります。やや風がある場合は、向かい風の方向に進むとネットの開口部が開いてすくい取りやすくなります。
(イ)振り幅と高さ
柄の基部を基点にイネの草冠部を半円形(すくい取り部分は扇型)にすくい取ります。手元(柄の基部)の振り幅は、20cm程度に留めます。すくい取りの高さは、ネットの枠の上縁が草冠高の10cm程度下になるように位置し、網は開口面を垂直に保ち水平にすくい取ります。ただし、6月中下旬頃のイネの草丈が低い場合は、ネットが水面に触れない程度の高さですくいます。(図参照)
(ウ)すくい取り回数
20回振り(往復10回)すくい取りによって捕獲された虫数を数えます。ただし、調査の対象や目的によってはすくい取り回数を増やして、40回振り等で調査する場合があります(例:水田内密度の低い飛行性のカメムシ類)。
(エ)歩行速度
すくい取りは、普通の歩行速度の1/3程度の速さで進みながら行います。あまりゆっくり進むと、敏捷な虫(コバネイナゴ等)はすくい取られにくくなります。ただし、田面が軟らかかったり、中干し時期など適度な早さを保ちにくい場合もあるのであくまでもめやすと考えてください。
(オ)気象条件
天候によって捕獲効率が大きく変動することがあるので、調査時の天候を記録しておきます。原則として、降雨時は実施しません。害虫が生息していても株内に潜り込むなどして捕獲効率が著しく低下したり、降雨で濡れて捕獲虫の計数も難しくなります。強風時も捕獲効率が低下しやすいので、避けたほうがよいが、やむを得ない場合は、その旨記録しておきます。
【すくい取り時のネットの高さのめやす】
【すくい取りの進み方のイメージ】
【農道畦畔のすくい取り方法】
ツマグロヨコバイ、カメムシ類、イネカラバエの調査では、畦畔の雑草地のすくい取りを行う場合があります。
図 すくい取り法の模式図
ア すくい取りは、畦畔の形状から半円形に網を振ることが難しいため、振り幅1.5m程度で一方向に直線的に20回、捕虫網の縁が地面に接するよう丁寧に行います。また、すくい取り間隔は広めにとり、広い範囲をすくい取るようにします。(図参照)
イ 降雨や露により雑草が濡れていない時間帯に行います。また、草刈り直後で刈草が上面にある場合や、クローバー類が優先している畦畔ではすくい取り効率が極端に低下するので注意してください。
4 病害虫別調査方法と調査基準
調査にあたっては「新潟県で発生する水稲主要病害虫の見分け方」も参考にしてください。
また、各調査項目の発生程度別基準は、調査した発生程度がどの程度かをおおまかに判断するためのものです。しかし、どんな病害虫でも発生初期の発生量は少ないので、ある時期の発生程度が少であっても、その後発生が増えて被害が発生することもあるので注意が必要です。
(1)葉いもち
ア 発病度の調査
(ア)調査項目 発病度
(イ)調査時期 6月後半~ 8月前半
(ウ)調査方法と調査基準
25株について株ごとの発病程度を下記基準で調査し、発病度を算出する。
発病度=(1×B+2×C+3×D+4×E)/(4×25)×100
A:発病なし
B:病斑が下葉だけに発生(病斑面積率 0.5%程度)
C:病斑が上位葉まで少し発生(同2%程度)
D:病斑が上位葉に多発生又は軽度のズリコミ(同10%程度)
E:ズリコミ(同50%以上)
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
発病度 | 0 | 1~20 | 21~40 | 41~70 | 71~ |
イ 見歩き調査(簡易版)
(ア)調査項目 発病株率
(イ)調査時期 6月後半~ 7月前半
(ウ)調査方法と調査基準
25株調査をおこなう中で、25株調査の調査株以外も含め、調査する条のすべての株を対象に発病の有無を歩きながら観察し、発病株数を調査する。調査株数を300株として発病株率を算出する。
発病株率=発病株数/300×100
(2)穂いもち
ア 調査項目 発病度
イ 調査時期 8月後半~9月前半(出穂期25日頃が調査の適期)
ウ 調査方法と調査基準
25株について株ごとの発病程度を下記基準で調査し、発病度を算出する。
発病度=(1×B+2×C+3×D+4×E)/(4×25)×100
A:発病なし
B:罹病穂10%以下(罹病籾は小枝梗5粒程度以上)
C:罹病穂 11~30%(ただし1/3以上不稔穂もみられる)
D:罹病穂 31~60%(ただし 1/3以上不稔穂がほぼ半数で白穂もある)
E:罹病穂 61%以上(ただし1/3以上不稔穂及び白穂が半数以上ある)
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
発病度 | 0 | 1~20 | 21~40 | 41~70 | 71~ |
(3)紋枯病
ア 調査項目 発病度
イ 調査時期 6月後半~9月前半(出穂期25日頃が調査の適期)
ウ 調査方法と調査基準
25株について株ごとの発病程度を下記基準で調査し、発病度を算出する。
発病度=( 1×B+2×C+3×D+4×E)/(4×25)×100
A:発病なし
B:病斑は第3葉鞘以下
C:病斑は第2葉鞘まで
D:病斑は止葉まで。止葉に生色あり。
E:病斑は止葉まで。止葉は枯死状態。
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
発病度 | 0 | 1~20 | 21~40 | 41~70 | 71~ |
(4)ごま葉枯病
ア 調査項目 発病度
イ 調査時期 8月後半~9月前半(出穂期 25日頃が調査の適期)
ウ 調査方法と調査基準
25株について株ごとの発病程度を下記基準で調査し、発病度を算出する。
発病度=( 1×B+2×C+3×D+4×E)/(4×25)×100
A:発病なし
B:1株中病斑がわずかに認められる。
C:1株の上葉に病斑がかなり認められる。
D:1株の上葉にかなり多くの病斑が認められ、上位3葉の一部に枯死葉が認められる。
E:1株の上葉に非常に多くの病斑が認められ、上位3葉で枯死葉が認められる。
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
発病度 | 0 | 1~20 | 21~40 | 41~70 | 71~ |
(5)イネドロオイムシ
ア 成虫数の調査
(ア)調査項目 成虫寄生数
(イ)調査時期 5月後半または6月前半(本田侵入最盛期に合わせてどちらかで実施)
(ウ)調査方法
畦畔から1mの位置にある連続50株について株ごとの成虫寄生数を調査し、合計値を算出する。
この時期は、25株調査は行わない。
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
成虫寄生数 | 0 | 1~10 | 11~40 | 41~80 | 81~ |
イ 被害の調査
(ア)調査項目 被害度
(イ)調査時期 6月後半
(ウ)調査方法
25株について株ごとに下記基準により食害程度を調べ、被害度を算出する。
被害度=(1×B + 2×C + 3×D + 4×E)/(4×25)×100
A:被害なし
B:被害葉率1~15%
C:被害葉率16~30%
D:被害葉率31~50%
E:被害葉率51%以上
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
被害度 | 0 | 1~20 | 21~50 | 51~70 | 71~ |
(6)イネミズゾウムシ
ア 成虫数の調査
(ア)調査項目 成虫寄生数
(イ)調査時期 5月後半または6月前半(本田侵入最盛期に合わせてどちらかで実施)
(ウ)調査方法
畦畔から1mの位置にある連続50株について株ごとの成虫寄生数を調査し、合計値を算出する。
この時期は、25株調査は行わない。
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
成虫寄生数 | 0 | 1~10 | 11~20 | 21~40 | 41~ |
イ 被害の調査
(ア)調査項目 被害度
(イ)調査時期 6月後半
(ウ)調査方法
畦畔から1mの位置にある連続50株について株ごとに食害程度を下記基準で調査し、被害度を算出する。
この時期は25株調査は行わない。
被害度=(1×B+2×C+3×D+4×E+5×F)/(5×25)×100
A:被害葉なし
B:被害葉率 1~10%
C:被害葉率 11~20%
D:被害葉率 21~30%
E:被害葉率 31~50%
F:被害葉率 51%以上
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
被害度 | 0 | 1~20 | 21~30 | 31~50 | 51~ |
(7)ニカメイチュウ
ア 被害株の調査
(ア)調査項目 被害株率
(イ)調査時期 6月後半~7月後半、8月後半
(ウ)調査方法
25株について株ごとに被害の有無を調査し、被害株率を算出する。
6月後半、7月前半の調査では、葉鞘変色茎及びしん枯茎、7月後半、8月後半の調査では、しん枯茎を調査する。
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
被害株率 | 0 | 1~30 | 31~60 | 61~90 | 91~ |
イ 刈り株の被害調査
(ア)調査項目 被害株率
(イ)調査時期 10月
(ウ)調査方法
刈り株40株について株ごとに被害の有無を調べ、被害株率を算出する。(越冬前刈り株調査)
無 | 少 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
被害株率 | 0 | 1~30 | 31~60 | 61~90 | 91~ |
(8)すくい取り調査
ア 水田内のすくい取り
水田内で 20回振り(往復10回)すくい取りによる成・幼虫数を調べる。
(ア)セジロウンカ 7月前半~8月後半
無 | 小 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
虫数 | 0 | 1~100 | 101~300 | 301~700 | 701~ |
(イ)ツマグロヨコバイ 7月前半~8月後半
無 | 小 | 中 | 多 | 甚 | |
---|---|---|---|---|---|
虫数 | 0 | 1~50 | 51~250 | 251~500 | 501~ |
(ウ)コバネイナゴ 6月後半~8月前半
(エ)カメムシ類 7月前半~8月後半
(オ)イネカラバエ 6月後半
(カ)イネアオムシ 7月前半~8月前半
イ 畦畔のすくい取り
畦畔などの雑草地で、20回振りすくい取りによる成・幼虫合計数を調べる。
(ア)ツマグロヨコバイ 4月~5月前半までの間に1回 確認地点率も算出する。
(イ)カメムシ類 6月後半~7月後半
(オ)イネカラバエ 6月前半
5 調査野帳
調査結果の記録は、1ほ場の結果を1枚に書き込み、集計もできるように次のページのカードのような調査用紙を作成して行います。また、耐水強化紙を使うと、雨に濡れても鉛筆等で記入できるため便利です。
病害虫抽出調査カード(市町村用) [PDFファイル/240KB]
6 終わりに
紹介した全ての病害虫を調査する必要はありません。自分の地域やほ場で問題となったり、よく見る病害虫を中心に調査を始めてみてください。ほ場の中で調査を行っていると、今まで気がつかなかった病害虫が発生しているかもしれません。その時に気になったら調査する病害虫を増やしてみてはどうでしょうか。
【経営普及課 農業革新支援担当(病害虫) 石川 浩司】
PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe社が提供するAdobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。(無料)