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令和6年度 小規模研究「スマートフォン連携記録計の開発」を紹介します
1.はじめに
平成11年度に当所で導入した恒温恒湿槽の記録計が令和5年度に故障しました。記録計は購入から16年以上経っているため、修理はメーカから断られました。同じ記録計は製造していないため、新しい記録計を調査したところ、故障した記録計と同様に紙へ打点する方式の他、SDカードやUSBメモリなどの半導体メモリへ記録するペーパレス方式の記録計がみられました。当所の恒温恒湿槽は機械器具貸付で企業や個人が有料で利用でき、恒温恒湿槽内の温湿度変化の記録が記された紙を利用者は持ち帰ることができます。紙へ打点する記録計は紙を利用者へ手渡すだけでよいのですが、ペーパレス方式の記録計を導入する場合、当所はコンピュータウィルスを考慮して外部から持ち込んだUSBメモリの使用を禁止していることから、「利用者が持参した未使用のCD-Rへ当所職員が温湿度データをコピーする」、「メールで温湿度データを利用者へ送信する」など、利用者や当所職員の作業が増えることになります。
そこで本研究では、利用者のスマートフォンと記録計を無線通信(Wi-Fi)で接続し、温湿度データをスマートフォンへ表示して持ち帰られる「スマートフォン連携記録計の開発」を試みました。
このようなデジタル化により、利用者は温湿度データの確認、保存、集計、グラフ化などがスマートフォンのアプリで可能になり、当所の職員は作業軽減につながることから、簡易的なDX(Digital Transformation)の例として、試作した装置について紹介します。
2.スマートフォン連携記録計
2.1 試作した装置の構成
恒温恒湿槽と試作した装置の写真を図1に示します。恒温恒湿槽の測定温湿度と同じ温度と湿度が試作した装置で表示されています。このように記録計が接続できるよう、温度と湿度に対応した出力の信号線が恒温恒湿槽で用意されています。Ch.1信号線は温度150.0℃に対し+1500mV、-40.0℃に対し-400mVが出力され、Ch.2信号線は湿度0%RHに対し0mV、98%RHに対し+980mVが出力されるため、記録計はプラスとマイナスの両方の電源が必要になります。また、日時記録に必要な時計、日時・温度・湿度・データ名・記録中や記録停止の状態を表示できる画面、記録開始と記録停止を操作するスイッチ、データを残すためのSDカード、突然の停電でも測定したデータを保存できる電池、スマートフォンと通信するためのWi-Fi機能が必要なので、これらの機能を持つM5Stack Technology Co., Ltd製のM5Stack Core2をコンピュータに使用しました。
[図1 恒温恒湿槽と試作した装置の写真]
試作した装置の全体の写真を図2に示します。試作した装置は、M5Stack部、金属ケースへ入れたAD変換部と電源部、ACアダプタ(USB Type-C出力)の構成です。AD変換部はアナログ回路なので、回路にノイズが重畳しないよう、金属ケースのFG(Frame Ground)は恒温恒湿槽のFGへ接続しました。
[図2 試作した装置の全体の写真]
試作した装置のブロック図を図3に示します。Core2はAD変換器を内蔵していますが、両電源に対応していないので、Microchip Technology Inc.製16bit AD変換器MCP3425を外付けし、Core2のI2C(PA_SDAとPA_SCL)へ接続しました。反転加算回路、反転回路、+500mV定電圧回路は演算増幅器を使用しました。-400mV(-40.0℃)がCh.1へ印加されると「-(-400mV+500mV)」が演算され、反転加算回路から-100mVが、後段の反転回路から+100mVが出力されます。後段のマルチプレクサはプラス側の電圧だけを出力できる信号選択器です。Ch.1が選択された場合、+100mVがAD変換器の「+」へ印加されますが、AD変換器の「-」へ+500mVが印加されるとAD変換器から「(+100mV)-(+500mV)」の値が出力されます。これはCh.1へ印加された電圧と同じ値になります。+1500mV(150.0℃)がCh.1へ印加された場合、+2000mVがAD変換器の「+」へ印加されます。MCP3425の基準電圧は2048mVであり、恒温恒湿槽の温度変化範囲(-40.0℃~150.0℃)のAD変換ができます。演算増幅器はDC/DCコンバータの±5V電源を使用しました。SDA、SCL、GPIOはハイレベルが+3.3Vのデジタル信号なので、マルチプレクサとAD変換器はCore2の+3.3V電源を使用しました。
[図3 試作した装置のブロック図]
金属ケース内部のAD変換部と電源部の写真を図4に、AD変換部と電源部のプリント基板配線面の写真を図5に示します。DC/DCコンバータのノイズがプリント基板を伝搬して演算増幅器やAD変換器へ入らないよう、電源部とAD変換部のプリント基板は分け、ノイズ重畳の原因になるグランドループができないように配線しました。
[図4 AD変換部と電源部の写真]
[図5 プリント基板配線面の写真]
2.2 スマートフォン連携の設定
試作した装置の主画面を図6に示します。破線の丸印の位置にタッチ式操作スイッチが3つあり、各スイッチの機能は「記録開始/記録停止」、「通信接続QRコード表示」、「表示接続QRコード表示」です。以下、スマートフォン連携の設定方法について説明します。
[図6 試作した装置の主画面]
初めに、試作した装置の「通信接続QRコード表示」スイッチに指で触れ、図7の写真のようにQRコードを表示します。QRコードはSSIDやパスワードなどのWi-Fi接続に必要な情報が含まれています。Wi-Fiはルータを使わず、試作した装置とスマートフォンの直接通信にしました。QRコードをスマートフォンのカメラでスキャンすると、図8の写真のように接続の確認メッセージが表示されます。「接続」を選択するとWi-Fiの接続が完了します。
[図7 通信接続QRコード表示]
[図8 接続の確認メッセージ(写真のSSIDの部分はマスクしました)]
次に、試作した装置の「表示接続QRコード表示」スイッチに指で触れ、図9の写真のようにQRコードを表示します。QRコードは試作した装置のIPアドレスが含まれたURLが記されています。QRコードをスマートフォンのカメラでスキャンすると、図10の写真のメニュー画面が表示されます。この画面は他のQRコードをスキャンするときに消えてしまうので、「ブラウザ起動アイコン」に触れて、図11の写真ようにブラウザの画面で表示するとよいです。スマートフォン連携の設定は以上です。
Core2はDual Coreなので、ブラウザの処理をCPU1で、その他の処理をCPU0で実行するよう処理を分け、プログラムを簡潔にしました。
[図9 表示接続QRコード表示]
[図10 メニュー画面(コードスキャナで表示)(写真のIPアドレスの部分はマスクしました)]
[図11 メニュー画面(ブラウザで表示)(写真のIPアドレスの部分はマスクしました)]
2.3 スマートフォン連携の機能
スマートフォンへ表示されたメニュー画面を図12に示します。データファイル表示、データファイル削除、日時設定、記録秒間隔設定(設定は不揮発性メモリに記憶)、記録開始/記録停止の機能を用意しました。データファイル表示の「SHOW DATA」を選択すると図13のようにデータファイル選択画面が表示され、データファイルを選択すると図14のようにデータが表示されます。
[図12 メニュー画面(説明付き)]
[図13 データファイル選択画面]
[図14 データの表示]
停電時、恒温恒湿槽の運転は中断されますが、復電時、恒温恒湿槽は残りの運転を自動再開します。試作した装置は図15のように「POWER DOWN」の文字と日時を停電時に記録します。停電中は恒温恒湿槽から温湿度の電圧値が得られないので電源を自動切断し(図16)、復電後に記録を自動再開するようプログラムしました。
[図15 停電時の記録]
[図16 電源自動切断時の画面]
3.おわりに
試作した装置を恒温恒湿槽へ取り付け、温湿度の記録をスマートフォンへ表示して結果を確認するなど、試作した装置を活用しています。恒温恒湿槽の担当職員がスマートフォンを持っていない場合を考え、日時設定と記録秒間隔設定はスマートフォンがなくても設定できるように改良しました。今後も試作した装置の使用実績を増やしながら、試作した装置の改良を検討したいと考えています。
職員がプログラムし、数万円の材料費で製作したことを利用者へ説明すると、試作した装置の製作方法ばかりでなく、「他のセンサを付けられるか」、「DXに活用できるか」など、発展的な質問や意見が利用者から得られました。今後、試作した装置の応用についても検討したいと考えています。
試作した装置のプログラムはC言語で作成しました。職員が製作したプログラムは公開や配布ができるので、簡易的なDXの例として技術支援に活用したいと考えています。
お問い合わせ:新潟県工業技術総合研究所
上越技術支援センター 菅家
TEL:025-544-6823 FAX:025-544-3762
(令和6年8月20日)