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イネ科雑草の発生を抑える畦畔の草刈り方法
畦畔の草刈りは、イネ科以外の雑草を温存するように高刈り(草刈りの高さ10cm程度)をします。この管理を継続して、イネ科以外の雑草の植被率を高め、斑点米カメムシが増殖しやすいイネ科雑草の発生を抑えることが可能です。
イネ科雑草の発生を抑える畦畔の草刈り方法 [PDFファイル/213KB]
イネ科雑草の発生を抑える畦畔の草刈り方法について説明します。
斑点米カメムシの被害を抑える対策として、出穂したイネに殺虫剤を散布する薬剤防除と、斑点米カメムシの増殖源となる水田内の雑草の除去や畦畔等の雑草を管理する耕種的防除が重要です。
耕種的防除対策の一つである畦畔等の雑草管理について、これまでの研究から、現在新潟県の主要な斑点米カメムシであるアカヒゲホソミドリカスミカメ(以後アカヒゲ)、アカスジカスミカメ(以後アカスジ)の発生量が多い畦畔は、出穂したイネ科雑草が繁茂する畦畔であることがわかりました。
また、出穂したイネ科雑草がない畦畔では、アカヒゲ、アカスジの発生量が少ないことから、畦畔の雑草がイネ科雑草以外であればアカヒゲやアカスジの発生が多くなるリスクは低くいと言えます。
従って、斑点米カメムシ対策としての雑草管理のポイントは、その畦畔の状態すなわち「植生」であると言えます。
植生とカメムシの関係について、1つの地区内の畦畔や雑草地の植生とアカヒゲ、アカスジの発生量を調査した事例を紹介します。
3つの調査地点とも同じ地区ですが、その植生によってアカスジの発生量が大きく異なりました。
アカスジカスミカメが多発生した地点1、地点2の植生に注目してみると、最大で100頭を超えるアカスジの幼虫、成虫がすくい取られた8月以降の植生は、出穂したイネ科雑草(メヒシバ)の植被率が高く、出穂した状態が長く続いていました。
このことから、アカヒゲやアカスジが増殖しやすい畦畔や雑草地の植生は、出穂したイネ科雑草の植被率が高く、出穂した状態が長く続く状態といえます。 一方、地点3はイネ科以外の雑草の植被率が高かったため、アカヒゲ、アカスジはほとんどすくい取られませんでした。
また、地点1、地点2でも草刈り等の管理により出穂したイネ科雑草がなくなると、すくい取り虫数もほぼ0になりました。
このように斑点米カメムシ対策として雑草管理をする場合、出穂したイネ科雑草に注目することが重要ですが、イネ科は非常に種類の多いグループですので、すべてイネ科雑草に注目し、判別するのは非常に困難です。
そこで、新潟県の畦畔の植生を調査しました。
新潟県の畦畔における主なイネ科雑草の出穂時期を紹介すると、4月からスズメノカタビラ、スズメノテッポウ、続いてヌカボやナギナタガヤ、6月頃からメヒシバが出穂し、7月以降は主にメヒシバが出穂していました。
このように新潟県の畦畔ではこれらのイネ科雑草がアカヒゲ、アカスジが出現する春から秋までリレーするように連続して発生しています。
これらのことから、畦畔の雑草管理は、「植生」、特に出穂したイネ科雑草に注目して、できるだけイネ科雑草の植被率を高めず、出穂しないように畦畔を管理することがポイントです。
ここで「高刈り」という技術について紹介します。
高刈りは、草刈りの高さを地際ではなく10cm程度にすることで、その後のイネ科雑草の発生の抑制に有効であるとされる方法です。
私たちは高刈りにより、
・イネ科雑草が抑制されれば、アカヒゲ、アカスジといった斑点米カメムシ対策となる
・除草剤を使用しないため、水田景観の保全に寄与できる
と考え、今回新潟県でこの高刈りによるイネ科雑草抑制効果を検証しましたので、ご紹介します。
試験は作物研究センターおよび現地の圃場で行いました。
まず作物研究センター内の圃場で行った試験を紹介します。
平成25年から平成27年にもともとは1本の畦畔を異なる方法で雑草管理をして、植生の変化を調査しました。
試験区として
・5月からおよそ1か月間隔で地際から10cm程度離して草刈りを行った、「高刈り区」
・5月からおよそ1か月間隔で地際から1草刈りを行った、「地際刈り区」
・4月下旬頃にグリホサートカリウム塩液剤(非選択制茎葉処理除草剤)を散布し、6月からは地際から草刈りを行った、「除草剤+地際刈り区」
を設けました。
管理のタイミングは雑草の繁茂状況から判断しました。結果的に高刈り、地際刈り区で1年で4~5回の草刈りを実施しました。
それぞれの試験区について、50cm×50cmの枠を設置し、枠内の植被率および草種を調査しました。
試験の結果です。
・管理方法を変えることで、植生は変化しました。
・高刈り区は地際刈り区よりもイネ科雑草の植被率が低くなりました。
・除草剤+地際刈り区は6月にはイネ科雑草が優占し、その後もイネ科雑草の植被率が高い状態でした。
試験区を写真を紹介します。
高刈り区はノチドメやシロツメクサといったイネ科植物以外の雑草が優占しています。
地際刈り区は平成25年8月20日では、シロツメクサが優占していましたが、管理を継続するうちに、メヒシバの被度が高まりました。
除草剤+地際刈り区は平成25年8月20日の段階で既にほぼメヒシバが優占しており、平成27年8月27日もほぼメヒシバが優占していました。
次に現地のほ場(長岡市A地点、長岡市B地点)で行った試験を紹介します。
現地のほ場でもセンター内の試験と同じように、1本の畦畔を異なる方法で雑草管理をして、植生の変化を調査しました。
平成27年は長岡市A地点、B地点で、『高刈り区』『地際刈り区』『除草剤+地際刈り区』
平成28年は長岡市B地点で、『高刈り区』『地際刈り区』を設けました。
処理区を大きく設定したため、見歩きにより植生を調査しました。
試験の結果です。
・季節が進むに従って、高刈り区は地際刈り区よりもイネ科雑草の植被率が低くなりました。
すなわち、高刈りによるイネ科雑草抑制効果をセンター内の試験と現地試験の両方で確認することができました。
結果について考察します。
高刈りはイネ科以外の雑草を温存し、植被率を高めることで夏のイネ科雑草の植被率を抑える効果があります。
そのため、既にイネ科雑草が優占し、イネ科以外の雑草が少ない畦畔では、高刈りによるイネ科雑草の抑制効果は十分でなく、イネ科以外の雑草の植被率が高まるまで、高刈りのイネ科雑草の抑制効果はすぐには現れにくいと考えられます。
また、出穂したイネ科雑草は高刈りすると、早い時期に再び出穂します。
このように、高刈りも万能な技術ではないと考えられます。実際の畦畔管理では、植生に応じて、高刈りと地際刈りを使い分けるなど柔軟に対応する方が良いと考えました。
ここまでの試験結果から研究成果としてまとめました。導入対象は主に草刈りで畦畔雑草を管理している農業者を想定しています。
【イネ科雑草の発生を抑える畦畔の草刈り方法】
・畦畔で除草剤を使用せず、高刈り(草刈りの高さ10cm程度)を継続することでイネ科以外の雑草の植被率を高め、イネ科以外の雑草の植被率が高い状態を維持する。
・出穂したイネ科雑草がまとまって発生している場合は、イネ科雑草は高刈りすると早い時期に再び出穂するため、地際から刈り取る。
・草刈りの時期はイネ科雑草の出穂や雑草の草丈に応じて判断する。 導入効果は
・イネ科以外の雑草の植被率を高め、イネ科雑草の植被率が低くなるように誘導することで、斑点米カメムシ類が増殖しにくい植生になる。
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