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「新之助」の斑点米発生リスクと共同防除地区における防除対策
「新之助」は既に一般栽培されていますが、斑点米の発生リスクは明らかにされておらず、カメムシ対策については、暫定的な対策を示しておりました。
斑点米の発生リスクは、出穂期の早晩と割れ籾の発生のしやすさから評価できます。このことは令和元年度の研究成果情報としても示しています。しかし、これまで「新之助」の割れ籾の発生程度は評価されていませんでした。
一方、共同防除の多くは、早生品種と「コシヒカリ」を主な対象として、その防除時期を設定して実施されています。そのため共同防除の防除時期は、「新之助」に対して早すぎる場合が多く、防除効果が劣る可能性が考えられました。
そこで、
(1)「新之助」無防除圃場で斑点米カメムシ類の発生実態を調査しました。
(2)主な加害種と考えられたアカスジカスミカメを用いた放飼試験により、斑点米の発生しやすさを調査しました。
(3)慣行の共同防除実施地区の「新之助」で、斑点米カメムシ類と斑点米の発生実態を調査しました。
まず、カメムシの種類と発生量についてです。
グラフは、無防除の「新之助」と「コシヒカリ」におけるアカヒゲホソミドリカスミカメ(以下アカヒゲ)とアカスジカスミカメ(以下アカスジ)の発生量の推移を示したものです。
「新之助」「コシヒカリ」とも、出穂後にアカスジ、アカヒゲの発生量が増加しました。
「新之助」における発生量は、アカスジがアカヒゲよりも多いことから、「新之助」ではアカスジが優占種であると考えられました。
またアカスジの発生量は、登熟前半に多いことがわかりました。
このグラフは、無防除圃場でカメムシ(上)と斑点米(下)の発生量を調査した3年分の結果をまとめたものです。
いずれの年次もアカスジが多く、アカスジの発生量は、2品種でほぼ同じか、「新之助」がやや多くなりました。また「コシヒカリ」でアカスジが多い年次は、「新之助」でも多い傾向が見られました。
下のグラフでは、棒グラフが斑点米率、プロットが割れ籾率を示します。
「新之助」の斑点米率は最大0.02%程度で、検査規準の0.1%をかなり下回ります。
「コシヒカリ」との比較では一定の傾向はありませんが、「コシヒカリ」並に低いとみられます。
割れ籾率は最高1%程度で、特に高い年次はありません。
これ以外のサンプルでも割れ籾率が高いデータはありませんので、新之助は割れ籾率が低い品種といえます。
このグラフは、時期を変えてアカスジカスミカメの成虫を放飼したイネにおける斑点米数の推移を示したものです。
これは水田のイネに1株ごとに袋をかけて、その中にアカスジ成虫を放した試験です。登熟期に4回の試験を行っています。放飼時期は、放飼日そのままではなく、出穂期後の積算温度で示しています。
アカスジによる斑点米は、その着色位置により、頂部斑点米と側部斑点米に分けられます。
「新之助」の頂部斑点米は、登熟初期の放飼で多く、後期には大きく減少します。このことは「コシヒカリ」も同じでした。
側部斑点米は、登熟後期の放飼でわずかに発生します。側部斑点米は割れ籾との関連がありますので、割れ籾数が多いと発生が多くなります。
先ほども述べましたが、「新之助」は割れ籾率が特に低い品種ですので、側部斑点米の発生は少ない品種と考えられます。
したがって、「新之助」では、アカスジの登熟前半の加害が主体になります。
このグラフは、共同防除実施地区内の「新之助」の斑点米率と割れ籾率を示したものです。( )内は、防除日を示しています。
6年間で19事例について調査しましが、斑点米率は最高0.03%で、0.1%を上回る事例はありませんでした。
割れ籾率の最高も1.5%程度で低い結果です。
この調査においては、付近の「コシヒカリ」も対象としていますが、「コシヒカリ」の斑点米率も低く、「新之助」と同じかやや低い結果でした。
先ほどの調査について、防除日と防除日から新之助の出穂期までの日数を示しました。
防除日は7月26日から8月7日の範囲です。出穂期までの日数は、5~14日で、いずれも出穂前に防除が実施されています。
カメムシは出穂後に水田に侵入しますので、「新之助」ではカメムシがいなく、穂も出ていない時期に散布されていることになります。
これには関わらず斑点米の発生が少ないのは。茎葉に付着した殺虫剤の残効や、防除によって地区内のカメムシ密度が大きく低下していることが推測されます。
本研究成果をまとめます。
◆「新之助」の主要種はアカスジカスミカメです。その発生量は「コシヒカリ」と同程度からやや多いと考えられます。
◆「新之助」の斑点米は、主に登熟期前半の加害による頂部斑点米です。頂部斑点米の発生しやすさは「コシヒカリ」と同程度です。
◆「新之助」の割れ籾率は安定して低いです。
→これらのことから、「新之助」の斑点米の発生リスクは、「コシヒカリ」と同程度からやや低いと見込まれます。
◆共同防除実施地区の「新之助」の斑点米率は低いです。
→このことから、現在の共同防除は「新之助」にも効果があると言え、共同防除により「新之助」を防除する場合、防除時期の変更や追加の防除は不要です。
最後に留意点です。
共同防除ではなく、個人でカメムシ防除を行う場合は、最新の農作物病害虫雑草防除指針(新潟県)を参照し、「コシヒカリ」に準じて、アカスジカスミカメに対応した防除を行いましょう。
「新之助」の斑点米発生リスクは「コシヒカリ」と同程度から低いと考えられますが、ノビエやホタルイが繁茂する水田ではアカスジカスミカメが多発生し、斑点米被害が生じるリスクが高いです。水田内雑草の対策を確実に行いましょう。