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障害者芸術文化祭の文芸作品
文芸作品では、短歌49作品、俳句66作品、自由詩34作品、川柳33作品もの応募がありました。
いずれも、作者の思いの込められたすばらしい作品ばかりです。
受賞作品は下記をご覧ください。
県知事賞
短歌部門
- 作者 小野 隆
- 作品 ほがらかな 医師あり聾の 吾を診察て 筆談の字も 踊るがごとし
- 審査委員コメント
自分を診察している医師の性格を、視覚で推測して、ほがらかな医師だと安堵している歌だが、聾者の習性を明るく表現して特殊な味わいがある。
俳句部門
- 作者 小林 敏夫
- 作品 飛蝗の児 見えて掴めぬ 車椅子
- 審査員コメント
車椅子生活をしていても、自然界の小さな動きにも心くばりをしているのがよい。そして、見えていながら、飛蝗(ばった)がおさえられぬもどかしさの表現を通して自分の身体の不自由を間接的に隠喩(いんゆ)表現をしているところが俳句的で余韻があってよい。
川柳部門
- 作者 中山 節美
- 作品 幸福に なると信じて 汗をかき
- 審査員コメント
人間が汗をかくときは、生活のためが一番多い。とくに主婦の場合は格別と思う。「働く」とか「努力する」とかでなく「汗をかき」でまとめて成功している。この句には説得するパワーを感じた。
自由詩部門
- 作者 渡辺 知博
- 作品 すばらしいこと
すばらしいことは
いきていること 食べられること
眠れること 住むところのあること
衣食住のそろっていること
普通に暮らせること
健康であること
一人でないこと
それがすばらしいことだ
みんなやってるそのことが
本当にすばらしいことなんだ
生きているということが
平凡に生きているということが - 審査員コメント
むすびの「生きているということが 平凡に生きているということが」すばらしいという実感、作者が本心から感じられたことが評価できます。
さり気ない言葉づかいの詩ですが、深いものがあります。
それを味わいたいです。行分けや言葉の並べ方、運び方の工夫もよいです。
審査員特別賞
短歌部門
- 作者 保坂 翼
- 作品 折り紙の トンボが飛べず 外を見る 夕焼け雲が 遠く広がる
- 審査員コメント
折り紙のトンボに作者の思いがすっかり乗り移っている感じのする暗示的な歌で、飛びたい思いを胸に抱きながら夕空を見ている抒情味も深い。
俳句部門
- 作者 三浦 カズ
- 作品 てきぱきと 炎暑をさばく 旗振女
- 審査員コメント
ダイナミックで、あまり句材にならぬような、旗振をしている道路上労働女性をターゲットとしてとらえた発想がよい。炎暑とよくマッチしていて、現代的であり、俳句によくある古くささがないところが秀逸である。
川柳部門
- 作者 弓削 慎太郎
- 作品 ゆうゆうと かんらんしゃで みるけしき
- 審査員コメント
いま全国的にジュニア川柳が話題となっている。今回、中学校から数名が参加、とても嬉しかった。「かんらんしゃ」から見下す景色を楽しむ本人の姿が見えるようである。正直に表現しているのが何よりもこの句の力となっている。おめでとう。
自由詩部門
- 作者 高橋 義孝
- 作品 3月11日
大地が揺れ 轟音(ごうおん)と共に押し寄せる津波に
それまで穏やかだった日常が 幸せが
明るいはずの未来(みらい)が 一瞬にして暗闇に包まれ
恐怖の絶頂で命を落した人達
そのTVの向こう側で起きた惨劇(さんげき)を目にした
多くの人々は誰もが我(わ)が事のように
胸を痛め 涙した
3・11
町は壊れ 故郷(こきょう)を追われ
さらに漏れ出した放射能が
見えない兵器となって追い撃(う)ちを掛ける
これ程多くの人間を犠牲(ぎせい)にしてまでも
今 3月11日が教えたかった事とは
一体 何なのか?
たとえ 町が復興(ふっこう)しても
亡くなった人の命は
失くした家族の笑顔は
二度と帰らない
でも その悲しみ 悔しさは逝(い)ってしまった
人達も 同じに違いない
だから 負けないで!
生きている意味は かならず有るはずだから
人はみな与えられた試練の中で一生を生き抜く
それはた易(やす)い事ではないけれど
その壁を 乗り越えたなら
人生は決して悪い方へは流れない
全てを呑(の)み込み
全てを奪(うば)い去った
3月11日
私達は あの日を わすれない - 審査員コメント
作者の目、この詩を書きあげた心の核を評価します。
東日本大震災の悲惨さを書くのは、そう難しくないでしょう。
しかし、それをわが身に引き受けようとする目があるかが、よい詩の条件です。
作者が問おうとしていること、忘れるなと言うことは、知事賞の詩にも通じることですね。