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障害者芸術文化祭(文芸部門)の作品
文芸作品は、短歌36作品、俳句30作品、川柳19作品、自由詩30作品もの応募がありました。
いずれも、作者の皆さんの思いが込められた素晴らしい作品ばかりです。
入賞作品は下記をご覧下さい。
短歌部門
県知事賞
- 作者 齋藤 ひろみ
- 作品 窓際の ゴーヤのつるは 宙(そら)を舞い あみ戸にからむ 目のある如し
- 審査員コメント
「窓際のゴーヤ」とあるのは、食用によるためだけではなく、グリーンカーテンのためでもあるのでしょう。支柱も立ててあるのでしょうが、盛夏には繁茂して網戸にも絡み付くのでは。「目のある如し」が巧みで、情景が鮮やかに伝わります。
審査員特別賞
- 作者 上林 洋子
- 作品 掌(てのひら)に 重さはかりて 水供う 逝きて六月(むつき)の 夫(つま)の遺影に
- 審査員コメント
亡き夫の遺影に水を供えているのですが、「掌に重さはかりて」という表現から視覚に障害のある方が作者であるとわかります。重い重い表現です。けれどもこの表現によってリアリティのあるすばらしい一首となりました。
俳句部門
県知事賞
- 作者 桑山 義郎
- 作品 地に出でて 果てしむくろや 終戦忌
- 審査員コメント
地に出でて骸(むくろ)になったのは何かとは作者は言ってないが、誰もが蝉を思い浮かべるだろう。蝉の幼虫は地上に出て羽化して成虫になる。ところが、今年は猛暑で羽化しきれない蝉がいたという。作者はこの骸になった蝉の光景を見て、切ない思いをされたのだろう。
戦争体験がおありなのか、蝉の骸を通して無残な戦場の様子が重なった。現実の世界から終戦忌へ飛躍した心の一句である。
審査員特別賞
- 作者 柏 新日子(よしひこ)
- 作品 太陽の ような子が来て 苺もぐ
- 審査員コメント
「太陽のような子」の把握がすばらしい。明るく健康的な子どもを連想する。点々と赤く見える苺畑に大きな苺が現れたような、子どもの喜びに満ちた表情までもが見てとれる。
俳句はリズムが大切です。「子が来て苺もぐ」と一気にたたみ込むことにより、嬉しそうに苺をもいでいる子どもの様子が、読者に伝わって来ます。
明るい楽しい一句になりました。
川柳部門
県知事賞
- 作者 仲村 俊隆
- 作品 甲子園 エラーでアイスも 落っことす
- 審査員コメント
野球場でよく見る風景です。
大きなエラーと小さなアイスがおもしろい。大と小の組み合せがいいですね。それも一人だけでなく数人の人たちが浮かんで来ます。
審査員特別賞
- 作者 丸田 千恵子
- 作品 ふるさとを 離れて変わる 風さえも
- 審査員コメント
下五の「風さえも」が見事です。
「風」だけでなく、この「さえも」がよかったですよ。
「ふるさと」を離れたときの心境が予想されます。
自由詩
県知事賞
- 作者 長助 実歩(ちょうすけ みぽ)
- 題名 ひととき
- 作品
ほっとできる一瞬、一瞬の一時
出会えた不思議。癒しの人時
ありがとう、感謝の気持ち 人と気
木もれびのなか、精霊のことだま 人と木
今という一日、一日の充実感 日と時
たくさんの支えのなかで見つけたヒトトキは、僕を笑顔に変える宝物
今、できること。一つひとつの積み重なり
一歩づつ、一歩づつ 登ってみよう
ほっとできる一瞬、一瞬の一時
出会えた運命。感動の人時
忘れない、感謝の気持ち 人と気
せみの鳴き声、小鳥のさえずり 人と木
現在(いま)という、日常のなかで感じる 日と時
焦らなくて良い。慌てなくて大丈夫
一歩づつ、一歩づつ 気楽に生きよう - 審査員コメント
長助さんは暮らしの中で出会う幸せや喜びを「ひととき」という言葉であらわしています。そうしたこころの動きを「人と気」「人と木」「日と時」と言い方を変えて、表情豊かに描いています。
幸せな思いになる素適な詩です。
審査員特別賞
- 作者 宵乃 暁(よいの あかつき)
- 題名 約束の円舞曲(ワルツ)
- 作品
くすり指のさきに紡いだ紅い糸
どれだけ離れようとも 巡り逢える
約束の円舞曲は 螺旋に刻まれた愛を何度も奏でる
琥珀の月に照らされ 女神は純潔を契った
強く強く 握りしめた手と手
重ねた唇は想いをクレシェントさせテンポを上げる
朱の衝撃と喜びの涙は 不規則な音階と旋律を奏ては
生命(いのち)の音符を螺旋のスコアに刻んでゆく
悠久の世から流れ続けるメロディーは 幾千幾億を繋ぐ
二人の絆
どれだけ時を重ねようとも 出逢った瞬間鳴り響き
くすり指の紅い糸に気付くのだから
輪廻転生を繰返し 約束の円舞曲を今また奏でる
色褪せることのない愛の記憶を - 審査員コメント
宵乃さんはクラシック音楽が好きなのでしょう。
まるで指揮者のように愛の記憶を奏でています。運命の愛への思いを楽しく思い返す。宵乃さんと共に私も愛の記憶をたどり、ワルツを踊っていました。