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「森林」という活字が新聞に頻繁に登場するようになってから四半世紀がたちます。林野庁が森林浴構想を発表したのが1982年でした。しかし森林を取り巻く環境は、新聞報道の多さに反して、年々厳しい状況下に陥っているのではないでしょうか。新年を機会に森林研究の評価について所見を述べたいと思います。
公益的機能という言葉が一般的に使用されるようになったのは、林野庁が森林の公益的機能計量化調査を実施した1971年度が最初と思います。当時は経済も右肩上がりで森林の木材生産機能を内部経済、公益的機能を外部経済などとも呼んでいました。しかし、林業・木材産業にかげりが見えてきたのもこの頃からでした。
そして森林整備の推進方向が具体的に水土保全、森林と人との共生、資源の循環利用の三本柱となったのは1996年度からでした。公益的機能という言葉が世に出てから、ちょうど四半世紀後に内部経済から外部経済重視へと政策転換したわけです。
しかし近年、研究課題は前述の流れとは逆に「産業振興に直結し、かつ費用対効果」を考えて設定しなさいと言われています。
そのため、造林や林木育種など外部経済関係の課題は、短期間での評価ができないので採択は難しくなってきました。また、きのこの種菌開発についても、元々は種苗法の改正により、種菌の入手に不安を抱いた農林家が安心してきのこ栽培に取り組めるようにということで始めたものでしたが、県の機関が直接実施する必要はないという議論もあります。
研究には、きのこ・山菜などの生産に直結して、成果を金額で評価することができる研究と、造林(育林)・森林病害虫などの技術を開発する金額での評価が困難な研究があります。また、木材分野のように金額で評価できるもの(製品開発)と、金額での評価が難しいもの(スパン表=使用条件と最低断面寸法の早見表)の両面を持つ研究もあります。
造林・林木育種などは、森林の成長速度にあわせ、四半世紀ぐらいの尺度での評価が必要ではないでしょうか。
また、きのこなどの研究は、農林家への種菌等の提供が目標ですが、蓄積される技術の普及も農山村の振興のため重要と考えています。
短兵急な評価と物量のみによる評価に危機感を感じております。
今年もご支援を賜りますようお願いしまして新年のあいさつとします。
選抜したワラビ「新潟5」
梁背の断面寸法は経験的に決められていた
森林研究所長 保科孝且