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最近、海岸クロマツ林でも松くい虫被害が認められるようになってきました。また、除間伐が不十分なために枝が高く枯れ上がった林分も見られます。このような防災機能が低下している海岸防災林内に常緑広葉樹を植栽する工事が日本各地で行われています。そこで、新潟県の治山事業でこれまで海岸防災林内に植栽されている常緑広葉樹の植栽成績を調査しました。
表に海岸クロマツ林内に樹下植栽されたシロダモの生残率と樹高成長量を示しました。調査地は長岡市野積地内と新発田市藤塚浜地内2箇所の合計3箇所です。生残率は概ね良好ですが、樹高では野積が1年間に10cm弱程度しか成長していないのに対し、藤塚浜では35~45cmと大きく野積を上まわっています。
そこで、林内の光環境を比較するために魚眼レンズを使って全天空写真を撮影しました。すると、林内の開空度(空の占める割合)は野積が4~10%であるのに対し、藤塚浜では10~20%であることがわかりました。したがって、海岸防災林内に常緑広葉樹を樹下植栽する場合は、成長を促進させるために十分な除間伐が必要と考えられます。
それでは、常緑広葉樹の植栽に適した場所は明るければ明るいほど良いのでしょうか。
胎内市荒井浜地内では、まとまって松くい虫被害を受けた海岸アカマツ林内にシロダモとタブノキの混植を行いました。植栽は平成11年春に行い、図のように北東~南西方向に細長い楕円形で、長径は約40mです。
シロダモとタブノキは植栽直後から北東側に植栽された苗木に枯損が認められるようになり、平成18年秋には主に南西側に生残していました。図のように、前生樹のアカマツの樹冠下や樹冠の端から樹高の半分程度北側の距離に植栽された苗木が生残していたことになります。しかも樹高はシロダモ、タブノキ共に1年間に約40cmと良い成長を示していました。
このことから、海岸防災林の土壌は砂質未熟土であるため乾燥しやすく、日当たりの良い環境では著しく成育状態が悪くなると考えられます。実際、新潟市四ツ郷屋地内で日当たりの良い環境に新植されたタブノキは枯損が激しく、植栽翌年にはほとんどが他樹種に改植されています。
表 樹下植栽したシロダモの生残率と平均年樹高成長量
図 平成11年春の植栽位置と平成18年秋の生残位置
日本海側では80~100mの林帯幅があれば防風機能を発揮できると言われており、この林帯幅を維持するには更新部分も含めて150m程度必要と考えられます。したがって、海岸防災林の前線から約150m程度はクロマツを主体に管理する林帯であり、これまでどおり適切な密度管理を行って維持する必要があります。
また、林帯幅が150m以上ある海岸防災林では内陸側において、松くい虫被害で機能が低下した林分の機能回復や保健休養機能も併せ持つ森づくりとして常緑広葉樹の植栽が可能な林帯と考えられます。
森林・林業技術課 武田 宏