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海岸線の長い本県において、冬季の季節風から人々の暮らしを守る海岸林は大切な存在です。森林研究所では、松くい虫被害に強い林帯造成に資する技術の確立のため、海岸砂丘地に植栽された広葉樹の生育状況を調査しています。今号では、タブノキ苗の生残と根鉢のサイズの関係について紹介します。
調査地は新潟市西区四ツ郷屋浜において、汀線からの距離が150から200mの旧クロマツ海岸林です。苗木の根鉢には、深さと直径を自由に設計できるMスターコンテナ(以下、Mスター)と、新潟県の治山事業において現在の標準仕様とされている深鉢ポット、従来の標準仕様であった普通ポットの3種を採用しました。このうち、根鉢の大きさは、Mスターは7仕様(表1)、深鉢ポット及び普通ポットは2仕様(表2)とし、全9仕様の設計としました。これらの苗木を2016年3月に植栽し、2019年11月まで生残調査を行いました。
表1 Mスターコンテナの寸法及び容量
表2 各ポットの寸法及び容量
試験試料(右から深鉢ポット苗、普通ポット苗、Mスター苗)
2019年11月の生残率は、全体で31%となりました。根鉢のサイズ別では、全体の生残率(31%)よりも低いのは3仕様(A、B及び普通ポット)であり、根鉢の深さは12cmと共通していました。また、全体の生残率(31%)よりも高い残りの6仕様の根鉢の深さは約19cm以上でした。統計解析の結果、前者の3仕様と後者の6仕様では有意な差がみられました。一方、根鉢の容量及び直径別では、生残率の傾向や差に明確な違いが認められませんでした。
海岸砂丘地は透水性及び浸透能が大きく、晴天日が継続すると風乾状態に近い乾砂層が表層に形成されることが知られています。このことから、根鉢の深さが一定以上の6仕様の根鉢は、地温や土壌水分の影響を受けにくくなり、生残率が改善されたものと考えられます。
表2より、深鉢ポットは普通ポットと比較して容量が4倍程度と大きいことから、深鉢ポットの根鉢を小型化することは、施工性及び経済性の観点から望ましいと考えられます。今回の調査は、生残率においては深さが重要となることを示す結果となりましたが、生残率が比較的高い6仕様の苗においても、最新である2019年11月の生残率は減少傾向にあります。つまり、根鉢のサイズ変更のみでは十分な生残率の確保が困難であるため、根鉢の小型化にあたっては、生残率を改善させる他の手立ての確立が重要になると考えています。
きのこ・特産課 佐藤