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ブナは積雪に対する高い適応力から、新潟県内では公共事業や市民活動による植栽事例の多い広葉樹です。しかしながら、下刈り時の誤伐による成長阻害が育林上の課題となってきました。一方、天然のブナ林では、林冠ギャップで次世代木が生育することが知られています。
そこで、ブナの造林技術の参考とするため、ギャップ内に植えられたブナ苗の成長と樹冠状態の関係を調査しましたのでご紹介します。
調査地は、村上市の国有林内にあるブナの天然林です。標高410mほどの国有林内で、地元の植樹活動(※)の場となってきた林分です。その中の長さ50m、幅30mほどの林冠ギャップに植えられた植栽木を対象に調査を行いました。
植栽は平成28年10月で、植栽後2夏を過ぎた平成30年の10月にその時再確認できた63本の植栽木の成長状況を調査しました。調査項目は、最も勢いのあるシュート長(当年枝の長さ)と、直上の林冠状態(図1)とし、それらの関係を統計的な方法で評価しました。
図1 調査項目 左:シュート(当年枝)長 右:植栽木の上層林冠状態の分類
調査の結果、植栽木のシュート長は高木層がある場所(図1のC1)で長く、解放された場所(図1のC4)でとりわけ短いことがわかりました(図2)。
C4はギャップの中心部に多く、C1はギャップ辺縁部に多い条件になります。ここのギャップ中心部は夏には大型のシダ類やエゾアジサイなどの低木が厚く繁茂していましたが、ギャップ辺縁部ではそれらの繁茂が抑えられている状態でした。
既報により、ブナのシュート長は前年の生育状態を反映すること、ギャップ辺縁部は太陽光の到達率が2%以下の暗い環境であることが報告されています。したがって林冠ギャップへ植栽されたブナ苗の成長は、林冠の影響で暗い辺縁部より、草本層が発達する明るいギャップ中心部でより抑制される傾向があると考えられました。
そして、これらの結果をブナの造林方法に応用し、小面積のギャップ状伐採や高木を残して暗い林床環境を維持し草本類の繁茂を抑制できれば、リスクの高い下刈り作業を最小限に抑えることができそうです。
図2 植栽木の上層林冠状態とシュート長
今回は植樹活動の事例から、ブナに適した造林方法を考えました。この結果を踏まえ、より応用しやすい技術となるよう今後も取り組みたいと思います。
最後になりましたが、本調査は関東森林管理局下越森林管理署村上支署管内で村上市の協力を得て行いました。関係各位に深謝申し上げます。
(※)「さけの森林づくり活動」村上市、漁協、林業関係団体等による事業。緑の少年団等による植樹や鮭の稚魚の放流などの活動を平成12年から続ける。
森林・林業技術課 塚原雅美