ページ番号を入力
本文
植物のDNAは、CTAB溶液を用いて抽出する方法が広く用いられてきました。この手法では有害なクロロホルム等の薬品を使用するため、それに対応した設備がある実験室が必要であり、これが多くの県で導入の敷居を高くしていました。そのような中、令和3年度、キレート樹脂を含む溶液(InstaGeneDNA精製マトリックス)を用いた簡易な方法により、無花粉スギを識別するためのマニュアルを森林総合研究所が公表しました。
そこで、この一連の作業を当所でも実施可能か検証しました。
今回は、手法の検証のため、花粉を出す(以下有花粉)遺伝子のみを持つカルス(細胞塊)(AA)とms1という無花粉の遺伝子と有花粉の遺伝子の両方を持つカルス(Aa)を用いて実験を行いました。
キレート樹脂を含む溶液とカルスを混合し、攪拌、98℃で4~8分加熱し、再度攪拌後、遠心分離機で分離した上澄みを回収しました。これがDNA溶液で、有害な薬品を使わず、短時間で抽出できました。
PCRは、目的となるDNA領域を複製して大量に増幅する手法です(図1)。現在、PCRで増幅できるのはms1のみになります。一方、電気泳動は、電流を流すとマイナスからプラスにDNAが移動するという性質を利用して、DNA断片を長さごとに分離する方法で、DNA断片長が短いほど移動距離が長くなり、またDNA断片の量が多いほどバンドの光量が上がります
今回実施した識別法では、無花粉の遺伝子(a)のバンドと有花粉の遺伝子(A)のバンドを確認できるため、無花粉の遺伝子のみを持つスギ(aa)、無花粉と有花粉の遺伝子の両方を持つスギ(Aa)、無花粉の遺伝子を持たないスギ(AA)を判別することが可能です。今回の試験では、AAとAaのカルスのDNAを解析し、これらを正しく判定できました(図2)。
図1:PCRの仕組み
図2:電気泳動の結果
マニュアルで公表された一連の作業を当所でも問題なく実施することができました。ただし、この抽出方法では、DNAを分解する酵素が残り、長期保存できないため、保存する場合は、CTAB溶液を用いた方法で行うなど、使い分けが必要です。
また、今回は比較的抽出の容易なカルスを用いましたが、葉からのDNA抽出などの検証も必要です。今後も、遺伝情報を活用した無花粉スギの開発のために新潟大学・森林総合研究所と協力していく予定です。
本試験は生研支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業(28013BC)の支援により行われました。
森林・林業技術課 番塲由紀子