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森林環境譲与税の導入により、森林の公益的機能を維持・増進するための森林整備が公的機関に求められるようになりました。そこで、森林整備効果を評価する際に着目すべき指標や手順について、令和3年度から2カ年間の研究課題で検討しました。
一般的に効果評価は、事前状態の記録、それと同じ指標の変化を追跡、分析と改善策のフィードバック、追跡の継続という手順がとられます。その調査指標が目的や状況に適したものであれば、評価をより明確にできます。
調査指標として、ここでは下層植生の豊かさの指標である種多様度(図1)を選びました。種多様度は生物多様性の指標でもあり、下層植生の豊かさは土壌の透水性や水質改善効果など水源涵養機能との関連が知られています。また、下層植生に対する効果の現れ方についても、上部斜面での変化が大きいこと、変化量は調査前の状況によって異なることなどが先行研究によって知られています。種多様度は、それらの先行研究との比較を行いやすいうえ、河川の流量など専門の設備が必要な指標よりも取り組みやすいことがメリットです。
図1 種多様度
※種多様度は種の豊富さと均等さを評価できる指標。
※林分1の方が林分2より多様度が高い。
次に種多様度の県内での指標としての有効性を検証するため、県内データと先行研究との比較を行いました。
その結果、県内データの種多様度は、表に示す森林整備後5年までは整備前よりも減少する場所が部分的にありましたが(図2の中の➀)、それ以外は全体的に作業前に近い値まで回復し、その後全体的に増加しました。変化量は森林整備10年目以降の斜面上部での増加が顕著で(図2の中の➁)、先行研究と同様の傾向が認められました。以上のことから、種多様度に注目することで、本県でも森林整備の効果を検証できる可能性があると考えられました。
作業実施年 | 2006年 |
作業時の林齢 | 60年生 |
本数伐採率 | 29% |
作業前密度 | 700本/ha |
作業前胸高断面積合計 | 62.5平方メートル/ha |
作業後密度 | 500本/ha |
作業後胸高断面積合計 | 49.8平方メートル/ha |
斜面傾斜 | 約30度 |
図2 プロットの斜面位置と種多様度の経年変化
森林整備による公益的機能の向上を評価するため、ここでは種多様度による検証可能性を検討しました。しかし、本来であれば気象や流出量などの直接的、間接的な指標と長期的な視点で、複合的に評価されることが望まれます。
そのような評価を将来可能にするためにも、立木の位置情報を取得できるアプリなど新たな技術も活用した管理体制づくりが重要です。
※本内容は「公益的機能に対する森林整備効果の検証指標としての種多様度の調査方法」として令和5年度研究成果情報に掲載されました。検証用調査の関係各位に、心よりお礼申し上げます。
森林・林業技術課 塚原雅美