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ツキノワグマによる剥皮被害(以下、「クマ剥ぎ被害」という。)を受けた立木は腐朽や変色が生じるため、木材としての経済的な価値の損失が問題となります。クマ剥ぎ被害の発生は胸高直径が大きい立木に多いことから、大径化しているスギ林において、被害の拡大が懸念されます。
このような背景のなか、被害木から製材した心持ち構造材の材質について林業関係者から調査要望があり、試行的に実施したので、その内容を紹介します。
調査は2022年9月から2023年1月にかけて実施しました。まず、クマ剥ぎ被害を外観で評価するため、新潟県下越地域のスギ人工林において、クマ剥ぎ被害がみられたスギ林分の立木36本を伐採して全幹集材し、長さ4mで4から6玉まで造材、164本を調査対象丸太とし、それぞれの剥皮被害の有無を目視で調査しました(図)。
さらに、それらの丸太を製材工場に持ち込み、164本の心持ち構造材に製材して調査対象とし、製品の腐朽被害を目視で調査しました。
また、腐朽した木材は強度が低下することから、見た目ではわからない腐朽を評価するために、乾燥前の心持ち構造材(寸法:幅120mm、高さ120~350mm、長さ約4m)の縦振動ヤング係数(以下、「Efr」という。)を測定しました。
図 造材された丸太の様子
(1)丸太について
164本の丸太のうち、剥皮被害は22本で確認され、このうち21本が1番玉の被害、1本が2番玉の被害であり、残りの142本には剥皮被害は確認されませんでした。被害丸太と未被害丸太の1番玉を比較したところ、被害丸太の元口及び末口径は未被害丸太よりも大きく、剥皮被害は胸高直径の大きな立木に多いとされる先行研究と同様の結果が得られました。
(2)心持ち構造材について
目視で行った腐朽被害調査の結果、164本の心持ち構造材のうち、部分的な腐朽が確認されたのは3本のみでした。また、3本の腐朽部位は辺材のみであり、心材部の腐朽は確認されませんでした(写真)。腐朽を確認した3本のうち、2本は3番玉由来であり、丸太の状態で剥皮が確認されなかったことから、丸太の外観のみでは、生産される心持ち構造材の腐朽状況は判断できないことがわかりました。
写真 心持ち構造材の辺材に残った腐朽
腐朽が確認されなかった161本のEfrは、著しく値が低下したものはみられませんでした。腐朽を確認した3本も同様でした。ただし、腐朽を確認した3本は試験体数が少ないことから、クマ剥ぎ被害を受けた心持ち構造材を建築用材として利用するには、十分な試験体数を確保し、必要な強度性能を有することの確認が今後は重要になると考えられます。
本調査は株式会社坂詰製材所から御協力いただき実施しました。御礼申し上げます。
きのこ・特産課 佐藤 渉