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【魚沼】メンタルヘルスシリーズ第8回 「心地よく介護を行うために」
前回のメンタルヘルスシリーズでは、老年期のメンタルヘルスについて学びました。
新潟県高齢者地域ケア推進プラン(平成25年8月策定)によれば、新潟県の高齢者推計人口は平成24年度で636,820人(27.1%)、高齢者のうち要支援・要介護認定者数は同年度で121,006人(19.0%)となっています。ほぼ5人に1人の高齢者が、日常活動動作において他者から何からかに支援・介護が必要であることが分かります。
また、魚沼市を見ると、高齢化率は30.2%、認定者数割合は19.3%であり、どちらも県の割合よりも高率になっています。
人は誰でも年齢を重ね、病気等を患うことにより、身体機能や認知機能が低下し、何らかの形で支援や介護が必要になります。
自宅で生活する高齢者への支援や介護は、入浴などの訪問介護を利用していても、家族(配偶者、子供、子供の配偶者など)が担うことが多いでしょうから、体力的にも精神的にも家族に負担がかかることが予想されます。
シリーズ第8回では、前回に引き続き、高齢者に焦点を当て、高齢者を介護することになぜ負担を感じるのか、どのように過ごすと介護する側も心地よく過ごせるのかについて考えていきましょう。
(1)老年期の変化は分かっているけれど
年齢を重ねると身体の機能が衰えて視力や聴力が低下する、脳の機能が低下して物覚えが悪くなるといった変化が見られてきますが、それに伴い、高齢者はこれまで出来ていたことが出来なくなってきます。
例えば、家族が頼んでいたことを時間が経っても出来ていない、外出に誘っても外出しぶりをするなどといった変化が見られることがあります。これは、(1)身体が利かずに動きが鈍くなる、(2)出来なくなったことで自信がなくなる、(3)出来なくなったことを理解できないといったことなどが背景にあると考えられます。
しかし、周囲の家族から見ていると、どのように見えるでしょうか。
そんな高齢者の姿に、「年齢のせいかもしれない」と思う一方で、「これまでできていたのに、なぜできないのか?」、「まだまだ元気なのだから、大丈夫できるでしょう!」とついつい考えてしまうことはないでしょうか。
高齢者の機能低下による行動について理解したいと思う気持ちと、これまでの行動とのギャップに悩む気持ちが、高齢者本人だけでなく、周囲の家族にも生じてくるからではないかと考えられます。
(2)介護はなぜ「疲れる」?
加齢による身体や脳の機能低下、内蔵疾患、認知症の発症等に伴い、日常生活を送ることがこれまでよりも大変になると、家族等による支援が必要になってきます。
その支援内容は、食事やトイレ、着替えなどの介助のほか、服薬管理やコミュニケーションの支援など多肢にわたり、特に重度な要介護高齢者の介護では特別な技能や知識が必要になる場合も少なくありません。
介護をする場合、高齢者の身体機能を支える場面では体力が消耗しますし、高齢者の認知機能を支える場面では、繰り返し物事を伝えるといった行動などから精神的に消耗します。
また、介護は24時間365日休みなしのこともあり、介護が終わる具体的なゴールの見通しも立ちませんので、先行きの不安や不満が募ります。そのため、より身体面、精神面で家族等の負担感が和らがないのではないでしょうか。
様々な負担感の積み重ねにより、長期に介護する家族は「疲れる」と感じやすくなると言われています。そのようなときには、家族に睡眠障害や介護うつ・希死念慮といったメンタルヘルスの問題を引き起こす可能性があります。
一方、負担感を高齢者に向けてしまうと、家庭内の高齢者虐待の要因になる可能性もあります。
(3)高齢者のメンタルヘルスの特徴を知りましょう
家族の介護負担感を軽減する方法の一つに、「相手の状況・状態を知る」ということがあります。
老年期は身体だけでなく、こころの健康にも変化があることは前回紹介しましたが、老年期のメンタルヘルスの特徴の一つに認知症があります。「認知症の高齢者の介護は、家族の負担感が特に重くなる」と言われていますので、このケースについて考えてみます。
認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったために様々な障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態を指します。物事を全く忘れてしまう、時間や場所が分からなくなる、いつもと違う出来事で混乱するといった症状・状態が現れます。
家族が高齢者の言動に対して「なぜこんなことをしてしまうのか」、「以前は違った」と考え、相手を変えようと対応しても、機能の低下や疾患が原因であると変わることは大変難しくなります。例えば、失禁したり、食事を手で食べるといった認知症の異常行動に対して、理詰めで怒っても解決できる問題ではありません
高齢者の言動を理解するためには、よく高齢者自身の話を聴く、よく観察する、よく情報収集することがポイントになります。
食事をしないのは、食べ物かどうか分からず混乱しているのかもしれませんし、トイレに失敗するのはトイレの場所が分からなくなっているのかもしれません。相手の理解度が今どのような状況にあるのか知って対応策を考えると、介護者自身が精神面で楽になることがあります。
(4)介護を一人で抱え込まない
介護を長く続けるためには、身体的にも精神的にも、そして経済的にも無理のないように続けることが大切です。
そのためには、まず介護者が一人で問題を抱え込まないこと、そして、なるべく負担の少ない方法で明るく介護をするということがポイントになります。次のような支援の輪を利用してはいかがでしょうか。
地域包括支援センターに相談する
地域には高齢者の介護について相談できる窓口、地域包括支援センターがあり、悩みや心配の相談に応じています。窓口に相談すると、介護サービスだけでなく、高齢者に必要な支援について一緒に考えてもらうことができます。
話すだけでも安心できますし、地域にあるさまざまな介護情報を得られたり、自分だけで抱えてきた負担を軽くするヒントをつかむことができます。
介護サービスを利用する
何もかも自分で介護しようとすると心身が疲れ果ててしまいます。介護サービスを利用することで介護者に自由な時間を確保することも大切です。
特に認知症が進んだり、仕事の都合でこれまでのように家族が「生活の一部」として介護できなくなった場合には、「介護が生活の一部でなくなったら施設に任せることも選択肢」と考えることで気持ちにゆとりが生まれます。
在宅介護を使命視すると、「この先、介護負担が大きくなるのではないか」と不安感が抜けません。
介護のテクニックを身につける
介護のテクニックを身につけるのと、行き当たりばったりで介護をするのとでは疲労や時間的余裕がずいぶん変わってくるものです。介護にかかる労力を軽減し、効率よくするには何より介護のテクニックをマスターすることです。
県社会福祉協議会、市町村で介護のための講座を開催しているときがあるので、受講してみるのもお勧めです。
相談できる仲間を見つける
同じ境遇の人や近所のお友達など、話し相手がいて話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になるものです。
介護者は、同じような環境や悩みを持つ仲間がいる家族会等に参加するといったことを通して、家族以外とも交流を持ち孤立を防ぎましょう。
(5)お互いの生活を心地よくしましょう
介護は24時間365日休みなしのこともあり、終わるゴールも見えません。
生活をしていく上で、高齢者も介護を行う家族も、互いの生活を大切にすることが介護を長く続けられるためのポイントです。
次のように高齢者と関わり、お互いが心地よく生活できるよう工夫してみましょう。
環境や日課が規則正しくなるように
認知機能の低下によって、環境の変化は高齢者の混乱を招くおそれがあります。
その防止のため、例えば、食事や就寝の時間を一定にする、安全な道具は使い慣れた場所に置いておくなどの配慮が好まれます。また、朝起きたら窓を開いて季節を感じる、布団の上でなく食卓で食事をとる、積極的に歩行するなど身体を動かすといったことを通して、毎日の生活行為をリズミカルにしましょう。
日常生活において決まった動きが出来ると、高齢者も家族もお互い生活しやすくなります。
相手の出来たに注目する
機能低下や疾患等の影響によって、高齢者は出来ないことも増えてきます。出来ないところを見つけると「なぜ出来ないのか」と家族は思い、それがストレスにつながることもあります。
良いところを探すことで、介護を行う家族だけでなく、高齢者も生活に自信を取り戻すことができるのです。
出来ることは自分でしてもらう
介護が必要な状態になった場合でも、高齢者自身で出来ることは自分でする習慣を付けてもらうのはいかがでしょうか。高齢者自身、自分で出来ることを行うことで、身体機能や認知機能が残存し、日常生活動作が上がることもあります。
家族は、高齢者が出来ること、出来ないことをよく観察した見極めたうえで、上手く出来ない部分を手伝うようにしましょう。
自分で出来たという達成感は、介護する家族・高齢者双方の意欲向上につながります。
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