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平成20年2月定例会(請願・陳情)
陳情 第1号
第1号 平成19年12月5日受理 厚生環境委員会 付託
アイヌ民族に関する総合的施策確立のため国に審議機関設置を求める意見書提出に関する陳情
陳情者 社団法人北海道ウタリ協会 理事長 加藤 忠
(要旨)
社団法人北海道ウタリ協会は、昭和59年5月27日の総会において、アイヌ民族に関する法律(案)を決議し、国に対して新しい法律の制定と北海道旧土人保護法の廃止を求め、同年7月、北海道知事及び北海道議会議長に新法実現に向けて協力要請を行った。新しい法律の要望骨子は、第1に基本的人権、第2に参政権、第3に教育・文化、第4に農業漁業林業商工業及び労働対策、第5に民族自立化基金、第6に審議機関の6項目を列挙し、抜本的かつ総合的な制度を法的措置により国の責任で確立することであった。
その後、北海道知事の私的諮問機関である北海道ウタリ問題懇話会の審議を経て、昭和63年、北海道、北海道議会及び社団法人北海道ウタリ協会の3者からアイヌ民族に関する法律が制定されるべく国に要望された。
国では内閣官房長官の私的懇談会であるウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会を設置し、平成8年には、アイヌ語やアイヌ伝統文化の保存振興及びアイヌの人々に対する理解の促進を通じ、アイヌの人々の民族的な誇りが尊重される社会の実現と国民文化の一層の発展に資することを基本理念とし、文化振興等を柱とした同懇談会報告書が提出された。
しかしこの報告書は、アイヌの先住性、民族性、文化の特色及び我が国の近代化の4点からアイヌ民族の特質や歴史について述べてはいるが、アイヌの先住性と民族性については個々の記述にとどまり、それらを統一する概念としての先住民族については一切言及していない。また、北海道ウタリ福祉対策については、その成果に一定の評価を与えながらもいわゆる一般施策としての限界を指摘し、アイヌの生活向上に十分にこたえ得るものとは必ずしも言えないと評価している。このため、現在も依拠する法律がないまま施策が進められ、単年度の事業総額は年々減少の一途をたどっている。さらに、北海道から移住したアイヌに対しては、不十分とするその対策すらも適用されないという施策の限界、矛盾にも触れられていなかった。
この報告書は、北海道旧土人保護法などの廃止とアイヌ文化振興法の制定に重きを置いてまとめられており、国際連合の先住民族の権利に関する国連宣言などの審議動向や北海道ウタリ福祉対策の充実などは、今後の課題として整理されている。このことは、アイヌ文化振興法制定時に内閣総理大臣及び内閣官房長官が社団法人北海道ウタリ協会幹部に今後の国際連合の審議の動向を見据えていくことに直接言及され、さらに衆参両内閣委員会が全会派一致で決議した5項目にわたるアイヌ文化振興法案に対する附帯決議を併せもって考えると、正にアイヌ文化振興法制定以降も所要の施策を講ずることへの必要性を認めているのである。
ともあれ、近代国家が形成される過程において、民族としての存在や固有の文化を否定され生活の場や手段を奪われてきた先住民族の権利を認めることは、今日の国際社会の大きな流れとなっている。
国際連合では、文化的・宗教的・言語的アイデンティティー、知的財産権をはじめ、教育・情報・労働上の権利、経済的、社会的な権利、土地・資源に関する権利など、先住民族に関するあらゆる権利内容や措置についてまとめられた先住民族の権利に関する宣言が20年余にわたる審議を終え、このたび平成19年9月の総会で圧倒的多数により採決された。
社団法人北海道ウタリ協会は、昭和59年に決議したアイヌ民族に関する法律(案)の要望内容にあったアイヌ民族の総合的な施策の確立については、この先住民族に関する国際基準と言える権利宣言が採択されていなかったことから、ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会をもってしても国における法制史や国際人権法に照らした根本的な論議を尽くし切っていないと考えている。
ついては、貴議会において、アイヌ民族を国際連合の審議用語である先住民族(Indigenous Peoples)の対象であると認め、国際連合の第2期世界の先住民の国際十年行動計画の98段落にある国内三者会議(トライパタイトコミティズ)などの審議機関を設置して、新たな法律制定も含めアイヌ民族に係る総合的施策の確立を求める意見書を国に提出されたい。