本文
平成16年11月臨時会(所信表明)
平成16年11月臨時会知事所信表明
臨時県議会の開会に当たり、私の県政運営に臨む所信と施政の基本的な考え方の一端を申し述べ、議員各位並びに県民の皆様のご理解とご協力をお願いしたいと存じます。
私は、去る10月に行われました知事選挙におきまして、県民の皆様の御信託を得て、このたび新潟県第8代の民選知事に就任いたしました。まことに光栄の至りでありまして、私に課せられました使命と責任の重大さを痛感しているところです。
平山前知事は、3期12年にわたり県政を担当され、「公正でクリーンな県民参加の県政」を基本姿勢として、県民の福利向上、県民一人ひとりが誇りと生きがいをもって暮らすことのできる新潟づくり、北東アジアの拠点としてヒト、モノ、情報が行き交う新潟県づくりに努められるなど、大きな業績を残され、本県発展の展望を開いてこられました。これまでの御労苦に対し、心より敬意と感謝の意を表する次第であります。
さて、私の県政に対する所信でありますが、最初に、去る10月23日に発生した「平成16年新潟県中越地震」とこれに対する県の対応について申し述べさせていただきます。
中越地方を中心に県内全域を広汎に襲った震度7の大規模な地震は、死者40人、負傷者約2,900人をはじめとして、上越新幹線の脱線、関越自動車道などの道路網の崩壊、地滑り・崖崩れや約2万4千棟にも及ぶ住宅の損壊などの甚大な被害を引き起こすとともに、電気・ガス・水道などのライフラインの寸断、さらには中山間地の主要産業である農林業、畜産業、養鯉業等への壊滅的な被害、製造業の生産停止など住民生活や県内経済に深刻な影響をもたらしました。
特に、この地震により避難生活を余儀なくされた方はピーク時には約10万人を数えたところであり、現在でも約1万1千人もの人々が避難所等での生活を余儀なくされておられます。
私も、被災地域の状況をつぶさに見てまいりましたが、その被災規模の甚大さ、被災範囲の広さは中山間地の被害としては未だ例のないほどのものであり、あらためて、亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りいたしますとともに、被災されました皆様に対しお見舞い申し上げます。
県としましては、災害発生直後に「新潟県中越地震災害対策本部」を設置し、各種の応急対策を講じてまいりましたが、私は自らの任期が名実ともにスタートする先月25日の午前零時の本部会議において、被災者お一人おひとりの視点に立ち、県がなしうるあらゆる支援策を速やかに実施していくことを表明しました。市町村及び関係機関と連携を図り、特に機能が回復していない市町村については県としてこれを補完しながら、被害状況の把握に努め、被災者の救援、避難所生活の維持・改善はもとより、河川、道路、ライフラインなどの応急対策に全力で取り組んでまいりました。
また今回の震災では、断続的に大きな余震が継続したため、ストレスやエコノミークラス症候群などにより亡くなられる方が絶えなかったことから、避難所の運営に当たっては、避難者の生のニーズの把握に特に意を注ぎ、避難所における毛布・ストーブ等の配置、簡易トイレの確保、量だけでなく質の面でも十二分な食料の供給などに心を砕いたほか、医師・保健師などの派遣による避難者の皆様の身体的・精神的なケアの実施や、薬品や生活必需品などの提供にも万全を期したところです。
さらには、本震発生直後から仮設住宅の建設に早急に着手するとともに、災害救助法の応急修理のスキームを補完する県単独の上乗せ措置や、被災住宅復旧のための融資に対する利子補給制度の拡充など、7.13水害時での対策に加え、冬を控え予断を許さない豪雪地帯の地震被害の実態に特化した被災者住宅支援策を打ち出したところです。
このような県独自の各種対策に加え、先月26日に現地視察した小泉首相に対しては、今回の災害の状況をくまなく説明し、被災地の復興について要望を行ったほか、今月12日に開催された全国知事会議をはじめ、あらゆる機会をとらえて再度小泉首相ほか各関係閣僚に対し、被災者の住宅支援策や災害復旧事業などに対する国の財政的支援など、被災地域の復旧に向けた国の全面的支援を要望したところであります。その結果、小泉首相からは、各閣僚に対し国の支援の具体策についての知事の意見を忌憚なく述べるように、とのお答えを頂いたほか、与党内でも、この震災の復興のための特別の財政措置に関する法律の制定も視野に入れたプロジェクト・チームが明後日18日にも設置される見込みとなりました。なお、今回の要望の具体的内容は、本日、議員各位のお手元にお配りしてある要望書にあるとおりです。
今回の地震からの復興は、阪神・淡路大震災と同クラスの地震が我が国の国土面積の約7割を占める中山間地で発生した場合のモデルケースになるものとの認識に立ち、現在鋭意作業を進めているところです。被災者の住宅支援のほか、公共土木施設等の早期復旧、農林水産業、商工業などの早期再生、民生の安定のための諸施策を取りまとめ、12月議会に関連予算をお諮りしたいと考えております。
また、これと併せて、7.13水害で被災した公共土木施設の改良復旧事業などにも取り組んでおります。さらに、今回の災害や7.13水害を踏まえ、県民生活・環境部防災局に、緊急事態発生時に即座に応急対策を実施できる24時間体制の専門チームを設置するなど、危機管理体制の強化を図ってまいります。
なお、この災害の被災者のため、今月6日には天皇皇后両陛下が御来県され、避難生活を続けておられる方々お一人おひとりに対して温かいお見舞いのお言葉を賜りましたが、このことは被災地のみなさまのみならず、新潟県民に大きな勇気を与えるものとなりました。
さらに、災害救助活動などに際し、多大なご協力をいただきました林田内閣府副大臣をはじめとする政府の現地対策本部スタッフ、全国の自衛隊、消防、警察、ライフライン所管事業者などの関係機関の方々、全国の地方公共団体の職員の方々や、復旧活動のために全国各地、さらには海外から駆けつけていただいたボランティアの皆様と、義援金や救援物資等温かい御支援をいただいた国内及び海外の皆様に対し、県民を代表し心から感謝申し上げます。
続きまして、私の県政運営に臨む所信と施政の基本的考え方について、申し述べさせていただきます。
私は、「にいがた・夢おこし・創生プラン ~未来を託せる若々しい県政へ~」を基本姿勢に、少子高齢化やグローバル化が進展する中で、若者が未来に夢を持ち、誰もが安心して暮らせる豊かな新潟県を実現するため、新潟県の持っている潜在能力を引き出し、県民一人ひとりが一緒になって「夢おこし」をすることができる県民共同参画型の県政を推進していく所存です。
本県には、国内全体の食料供給を支える農業、地場産業をはじめ機械、食品、電気など多岐にわたる業種を抱える製造業、豊かな自然と伝統ある文化に支えられた多くの観光地、さらには、現在運行を休止しておりますが新幹線のほか、空港、高速道路などの高速交通ネットワークなど、多くの豊かな資源があります。これらの資源を十二分に生かし、経済をプラスの方向へ転換する方向感を持つことにより、10年後の新潟の姿を大きく変えていく必要があります。
「地方自立の時代」でありながら、三位一体改革が国の省庁の抵抗などにより、地方分権の推進という本来の理念を逸脱し、各省の省益や国の財政再建のみを優先する形で展開していることは誠に遺憾であります。今こそ、明治以来の中央集権国家体制を打破し、地方独自の政策立案能力を大いに発揮することにより、その地域の活力を向上させていくことが不可欠であります。そのためにも、私は、以下の3つの大きな柱で政策を実施していく所存です。
第1の柱は、「将来への展望を切り開く地域経済の自立 ~産業夢おこしプラン~」であります。
「産業は福祉の糧」と言われます。スウェーデン・フィンランドといった北欧諸国は、高福祉、高負担でも、力強い経済成長を続けていますが、これは、多くの税金を納めてくれる企業が育っているためです。私は、ふるさと新潟に、新規企業創業や第2創業支援を積極的に行い「金の卵を産むニワトリ」を育て、そうした企業育成を通じて若年者雇用対策を推進してまいります。
また、国際化の進展により日に日に激化する市場競争については、中国をマーケットととらえ、中国市場等環日本海経済圏で勝てる新潟のブランド化とその宣伝のための投資を行い、知事自らセールスの先頭に立ちます。
観光については、観光地の積極的・主体的な取組みを支援する振興策を推進するとともに、環日本海諸国をはじめとする海外からのビジネス客・観光客の受け入れを図ってまいります。
次に、本県の基幹産業である農業についてですが、食料自給率を向上させることを基本に据え、やる気のある担い手の努力が報われ、消費者の需要を反映した適地適産を推進するよう強く国に求めていきます。
また、生産基盤の整備を進めるとともに、豊かな自然環境を守るために不可欠な中山間地域等直接支払制度の継続と農家の所得保障政策の実施を国に要請します。
さらに、地産地消を基本とし、新潟米ブランドの販売支援体制の再構築による高付加価値化戦略を実施してまいります。
また、林業については、森林の有する多面的機能の発揮に向け、地域の特性に応じた適切な森林整備を推進するとともに、林業の持続的かつ健全な発展を図るため、低価格で安定的な県産材の供給体制を整備し、あわせて、公共的施設や、住宅への利用促進を図ってまいります。
水産業については、種苗放流等による「つくる漁業」、藻場造成や魚礁整備による「育てる漁業」、適正な操業区域・期間の設定による「管理する漁業」を適切に推進し、漁業の担い手確保・育成を図るとともに、内水面資源の増大と魚病対策の強化による内水面漁業の振興を図ってまいります。
また、新潟県に即した公共事業を実施するため、建設産業の再生のためのプランを作成し、地域の基幹産業である建設業の振興及びこれによる雇用の確保にも配慮した施策を展開してまいります。
最後に、北東アジア交流圏の表玄関化を図るため、日本海沿岸東北自動車道などの高速交通ネットワークの一層の充実により、日本海と首都圏とを結ぶ本県の拠点性を確保するとともに、空港、港湾の整備及び機能強化に努めるほか、海外航空路や航路の充実にも努め、ふるさと発展の基盤整備を進めます。
第2の柱は、「安心・安全で、一人ひとりが大切にされる社会の実現 ~くらし夢おこしプラン~」であります。
安心・安全な社会の実現は、県政にとってまことに重要な課題であり、「弱い人に力と光を」与えることなしに安定した社会を構築することは困難です。
かっては、鍵をかけないで出かけるのが当たり前でした。ところが近年、犯罪の増加や悪質化など県民の治安に対する不安感も強まっております。県としてもこれまでこうした事態に対し各種の対策を講じておりますが、全ての活動の基盤が治安の安定にあることから、犯罪のない安心なまちづくりを推進し、昔ながらの新潟の良さを取り戻したいと思います。
また、拉致問題については、その全面解決に全力を尽くします。拉致はあってはならない国家犯罪です。県民の生命・財産の保護は、知事が行わなければならない最大の使命であり、未解決の拉致被害者を抱える新潟県知事として、拉致問題の全面解決に向けて全力で取り組みます。
なお、このたびの日朝実務者協議において、北朝鮮側から資料等が提示されたところでありますが、依然として拉致被害者の安否そのものについての新たな情報もなく、北朝鮮側の説明にも疑問が残る点が多いとされております。私といたしましては、政府において引き続き真相究明に最大限の努力を続けて頂くとともに、北朝鮮が誠意を示さない場合は、国として経済制裁もありうるという強い意志を示しながら、拉致問題の全面解決を最優先に、毅然とした姿勢で臨むことを求めていきたいと考えています。
次に、教育についてでありますが、子供たちが安心して未来の夢を育むことができるような社会をつくるため、地域や時代のニーズに合致した学校教育を推進し、子供たちの個性と能力の向上を図るとともに、大学進学率の向上に努めるなど、「米百俵」の精神に基づく教育立県を目指します。
また、次世代の人材育成に積極的に取り組むため、高等教育機関の充実を積極的に支援し、社会の様々な分野の担い手づくりに努めます。
価値観の多様化、余暇の増加を背景に、心身の健康をはぐくむ文化やスポーツに対するニーズも高まっております。このようなニーズに応えるため、スポーツ、文化活動、生涯学習など、老若男女を問わず誰もが潤いのある生活ができるような環境整備を支援します。
さらに、様々な人たちが支え合い、皆が大切にされる社会を実現するため、男女が共に参画できる社会づくりを着実に推進するとともに、ボランティアとの協働及びその支援に努めてまいります。
特に、女性の社会参画を推進し、女性が働きやすい環境を構築するため、ファミリー・サポート・センターの充実など、コミュニティと連携して、女性が安心して子育てができる環境をつくります。
また、高齢化の進展に対応し、お年寄り誰もがみな住み慣れた地域でいきいきと暮らせるように、介護予防と地域生活への重点的支援を行うとともに、福祉施設の整備を着実に進めてまいります。
さらに、救命救急医療や、小児医療、災害時医療等を含めた医療提供体制の充実、医薬品等の安全対策と安定供給を図り、安心な生活を支える医療システムを構築してまいります。加えて、質の高いサービスを確保するため、医療従事者や保健・福祉専門職との連携、人材の確保に努めてまいります。
近年とみに消費者の関心の高い食の安全の確保のために、トレーサビリティの確保及び情報の全面開示、評価・監視システムの整備を行うとともに啓発活動を進めます。
また、高度化の進展著しいIT社会に即応するため、情報通信基盤の整備をはじめ、地域における人材育成・普及啓発の実施など、ITを基盤とした総合的な施策を展開してまいります。
最後に、環境にやさしい循環型社会を実現するため、ごみ半減運動に取り組むほか、産業廃棄物の減量化及び安全で適正な廃棄物処理体制の整備に努めてまいります。
第3の柱は、「地方分権・財政構造改革の推進 ~地域自立夢おこしプラン~」であります。
私は、主権者である住民に一番近い自治体である市町村が、教育・福祉といった行政サービスを提供すること、つまり、自分たちのことを自分たちで決めることが、無駄をなくし、結果的に行政経費を節減することになると考えております。
そのため、現在の県の事務・事業を見直し、市町村への権限・税財源の移譲を積極的に進めて参ります。これにより、県の担うべき役割を選択と集中の観点から徹底的にスリム化してまいります。特に、新潟市の政令指定都市への移行に際しては、この原則を基本に、できる限りの事務・事業の移管を実施し、名実ともに県と同等な政令指定都市の誕生のため、その移行を全面的に支援してまいります。
一方、国に対しては、他の都道府県知事とスクラムを組んで、国の権限・税財源の地方への抜本的な移譲を求め、真の地方分権、地方自立を実現するため全力を傾注してまいります。
また、県民参加型の「小さな政府」を実現するため、情報公開を積極的に進めるとともに、官民協働の促進と民間活力の導入を図り、行政事務のアウトソーシングを実施します。
最後に、県財政についてでありますが、冒頭に述べさせて頂いた災害の復興を財政の健全化に優先して取り組んで参ります。同時に既存事業の見直しや歳入の確保を徹底的に推進することにより、国に依存せず、自立することのできる強い県の財政基盤の確立に取り組んでまいります。
以上、県政に対する所信の一端を申し述べてまいりましたが、これらの施策を逐次実行していくことにより、未来に明るい展望を持てる、地方の時代にふさわしい新潟県を築き上げていきたいと考えております。何とぞ議員各位並びに県民の皆様には、ご理解とご協力を賜りますよう、ここに重ねてお願い申し上げる次第であります。