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令和2年6月定例会(陳情第7号)
第7号 令和2年2月19日受理 総務文教委員会 付託
請願権条例の制定を求めることに関する陳情
陳情者 特定非営利活動法人 護民官 代表者理事 角田統領
(要旨)
1 陳情の原因
1)日本国の関係法令
日本国の請願権に関する法令は、憲法(昭和22年5月3日施行・1947年)の第16条に規定があり、個別法の一般法としては請願法があり、請願法施行令や同施行規則はない。
憲法第11条で「憲法が国民に保障する基本的人権」と規定されているが、「何人も」対象となる請願権は、外国籍・無国籍の人は保障されないのか、という疑義がある。
憲法第16条では、次のように規定されている。
【何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。】
請願法(昭和二十二年法律第十三号)では、次のように規定されている。
【第一条 請願については、別に法律の定める場合を除いては、この法律の定めるところによる。
第二条 請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならない。
第三条 請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない。
○2 請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは、請願書は、これを内閣に提出することができる。
第四条 請願書が誤つて前条に規定する官公署以外の官公署に提出されたときは、その官公署は、請願者に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付しなければならない。
第五条 この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。
第六条 何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。】
2)大韓民国の関係法令
大韓民国の憲法(1948年7月17日施行)では第26条に請願権規定があり、個別法として請願法(全部改正2014年12月30日)がある。
憲法第26条には次の規定がある。
【全ての国民は法律が定めるところによる国家機関に対し文書による請願を行う権利を有する。国家は請願に対して審査する義務を負う。】
請願法には次の規定がある。部分的には疑義もある。
【第1条(目的) この法律は,憲法第26条の規定による請願権行使の手続き及び請願の処理に関する事項を規定することを目的とする。
第2条(他法との関係) 請願に関しては,他の法律に特別の規定のある場合を除いては,この法律による。
第3条(請願対象機関) この法律により請願を提出することのできる機関は,次の各号の通りとする。
1.国家機関 2.地方自治団体及びその付属機関 3.法令により行政権限を有しており,又は行政権限の委任又は委託を受けた法人・団体若しくはその機関又は個人
第4条(請願事項) 請願は,次の各号のいずれか一に該当する場合に限ってすることができる。
1.被害の救済 2.公務員の違法・不当な行為に対する是正又は懲戒の要求 3.法律・命令・条例・規則等の制定・改正又は廃止 4.公共の制度又は施設の運営 5.その他国家機関等の権限に属する事項
第5条(請願の不受理)
(1) 請願が次の各号のいずれか一に該当するときは,これを受理しない。
1.監査・捜査・裁判・行政審判・調停・仲裁等他の法令による調査・不服又は救済手続きが進行中であるとき 2.虚偽の事実により他人に刑事処分又は懲戒処分を受けさせ,又は国家機関等を中傷謀略する事項であるとき 3.私人間の権利関係又は個人の私生活に関する事項であるとき 4.請願人の姓名・住所等が明らかでなく,又は請願内容が不明確であるとき
(2) 請願書を受領した機関は,第1項各号のいずれか一に該当する事由により請願を受理しないときは,その事由を明示して請願人に通知しなければならない。
第6条(請願方法)(1) 請願は,請願人の姓名(法人の場合は,名称及び代表者の姓名をいう)及び住所又は居所を記載して署名した文書(「電子政府法」による電子文書を含む)でしなければならない。
(2) 多数人が共同で請願をするときは,その処理結果の通知を受ける3人以下の代表者を選任してこれを請願書に表示しなければならない。
(3) 請願書には,請願の理由及び趣旨を明らかにし,必要なときは,参考資料を添付することができる。
第7条(請願書の提出及び補完要求) (1) 請願書は,請願事項を管掌する機関に提出しなければならない。
(2) 請願書を受領した機関は,請願書に不備の点があると判断するときは,その請願人に補完すべき事項及び期間を明示してこれを補完することを要求することができる。
(3) 請願書を受領した機関は,請願事項がその機関が管掌する事項でないと認められるときは,その請願事項を管掌する機関に請願書を移送し,これを請願人に通知しなければならない。
第8条(反復請願及び二重請願の処理) 同一人が同一の内容の請願書を同一の機関に2件以上提出し,又は2以上の機関に提出したときは,後に受領された請願書は,これを返戻することができる。
第9条(請願の審査) (1) 請願を受理した機関は,誠実且つ公正に請願を審査・処理しなければならない。
(2) 請願を受理した機関は,請願の審査に必要であると認めるときは,請願人,利害関係人及び学識及び経験の豊富な者から陳述を聞くことができる。この場合において,陳述人(請願人は除く)には,予算の範囲において旅費及び手当てを支給することができる。
(3) 請願を管掌する機関が請願を受領したときは,特別な事由がない限り90日以内にその処理結果を請願人に通知しなければならない。
(4) 請願を管掌する機関は,やむを得ない事由により第3項の処理期間内に請願を処理しがたいと認めるときは,60日の範囲内で1回に限りその処理期間を延長することができる。この場合,その事由及び処理予定期限を請願人に通知しなければならない。
第9条の2(異議申立て) 請願が第9条による処理期間以内に処理されない場合において,請願人は,請願を管掌する機関に異議申立てをすることができる。[本条新設 2014年12月30日]
第10条(委任規定) 請願を管掌する機関は,請願の処理等必要な事項に関してこの法律に反しない範囲内で規則を制定することができる。
第11条(謀害の禁止) 何人も他人を謀害する目的で虚偽の事実を摘示した請願をしてはならない。
第12条(差別待遇の禁止) 何人も請願をしたという理由によって差別待遇を受け,又は不利益を強要されない。
第13条(罰則) 第11条の規定に違反した者は,5年以下の懲役又は1千万圓以下の罰金に処する。】
2 陳情の理由
1)日本国憲法と大韓民国憲法との違い
イ)日本国憲法第16条では、「請願する権利を有し」との規定はあるものの「義務」という文字はない。国会における立法解釈は、請願法第5条の「しなければならない」という規定に、論理解釈による「義務」が読み取れる。
しかし、政府の行政解釈は「請願を受理した官公署に対して、請願者にその処理の経過や結果を告知する義務までを負わせるものではない」(質問趣意書に対する政府答弁書・平成15年6月17日)と「義務」を否定しており、立法解釈と行政解釈は乖離している。この答弁書には小泉純一郎の名がある。
この行政解釈が妥当とされるためには、憲法第16条の「権利」は画餅にすぎず、主権が民にはない主権天皇の大日本帝国憲法という旧法の立場、すなわち旧法派の立場に立つことになる。もちろん、現行法上許容されるものではなく、憲法違反ではあるが、これを是とすれば人権後進国の誹りは免れない。
ロ)韓国憲法第26条では、「国家は請願に対して審査する義務を負う」と「国家」が「審査する義務」すなわち「国家の義務」を明記していることである。
ハ)この日本と韓国の両憲法を比較すれば、どちらが人権先進国でどちらが人権後進国であるかは明白である。
日本国憲法第16条の「義務を明記しない」という官僚の立法手法は、実効的請願権を認めたくない旧法派と実効的請願権を認めるべきという新法派の妥協の産物であり、文理解釈の余地も残して羊頭狗肉を可能ならしめているが、論理解釈によれば実効的請願権の実現は可能である。
2)日本国の請願法と大韓民国の請願法との違い
ア)日本請願法第5条は「この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。」として、「しなければならない」すなわち「官公署の義務」を規定し、「誠実に処理」の文字はあるものの「通知義務」の明文規定はない。
このことから、「請願者にその処理の経過や結果を告知する義務までを負わせるものではない」とする政府答弁書(答弁第八八号・内閣衆質一五六第八八号・平成十五年六月十七日)の行政解釈がまかり通っており、無答責すなわち「処理の経過や結果を告知する義務」はない、としている。
イ)韓国の前述の請願法では、「請願人に通知しなければならない」という文言が第5条2項、第7条3項、第9条3項及び4項等の4か所で使用され、応答責任がある、すなわち「有答責」とされている。
3)議会の会議規則について
ア)同規則には「権利」の文言も「義務」の文言もない。
同規則で「請願」及び「陳情」の規定はあるが、これらが権利であるかについて、規則は明らかにしていない。
陳情については、同規則に規定があり、「陳情書又はこれに類するもので議長が必要があると認めるものは、請願書の例により処理するものとする。」と規定され、「議長が必要があると認めるもの」との文言から、「陳情は権利ではない」旨の扱いとなっている。
イ)地方自治法第109条2項に「請願」の規定があり、改正前は「陳情であった。この「陳情」の文字が法条から消えたことにより「「陳情」は、請願のように憲法に保障された権利ではなく、一般的な手続きや形式が法律に定められているわけではありませんが、国または地方公共団体の機関に対し、実情を述べ適当な措置を要望することをいいます」などとする、文理解釈による誤った運用が罷り通っている。
ウ)地方自治法第124条に「議員の紹介」の規定があり、同規則にも「請願を紹介する議員」の規定はあるが、その「紹介」が議員の権利であるか議員の義務であるか、それが立法行為か行政行為かについての規定がない。議長は原則的に行政庁であり、議会の司会者であり、可否同数の場合のみ立法権を行使できる。アメリカにおいては、上院の議長は議員ではなく執行機関である副大統領が兼務している。
この「議員の紹介」が議員の権利であるか義務であるかについては議論があり、「請願紹介権であり、議員の地位に基づく固有の権利である」(野村 稔『地方議会実務講座』277頁)とされ、「請願の内容に賛意を表するものでなければ紹介すべきものでない」(昭和24年行政実例)(中島正郎『新訂 請願・陳情ガイドブック』164頁)、「請願の内容に賛同できない議員が、その紹介議員となることは許されない」(全国町村議会議長会編集『議員必携第8次改訂新版』273頁)されるが「紹介議員は必ずしも請願の趣旨に賛成する者である必要はない」(鵜沼信二『地方議会実務講座』105頁)ともされる。
仮に、「議員の紹介」に拒否権があるとすれば、明治憲法の請願における行政検閲と同様である。「議員の紹介」は公務であるから、当該公務を行う公務所の所在が問題となるが、法令にも議会規則にも規定がない。
4)法令の意義について
ア)法令は、言うまでもなく、有権者と国との契約である。
地方自治体の機関は、法令及び有権者との契約である条例(例規)に基づいて行政を行う。地方行政は執行権+立法提案権であり、地方議会は、憲法第94条の「条例制定権」に基づいて立法権者として条例を制定する。
イ)この条例(例規)の中に、有権者と行政機関である首長、立法機関である議会との権利義務関係が規定されている。
前述のように、「誤った解釈運用」や「規定がない」ものがあるからそれらの条例(例規)の是正や拡充が必要である。
5)条例と法令との重層性について
ア)個別法のと内容とほとんど同じ条例が、数多く制定されている。
例えば、行政手続法があり、行政手続条例がある。また、情報公開法があり、情報公開条例がある。
イ)請願法に対応した条例は制定されていない。
憲法第16条で保障された請願権の光が、自治体には届いていない。
6)旧法派による文理解釈によって請願権が画餅とされ、基本的人権の侵害が横行しているのが実状である。
ついては、貴議会において、この画餅を活餅にする、「憲法を暮らしに活かす」との新法派の観点に立って論理解釈を行い、主権在民の憲法に相応しい実効的請願権にする為に、地方自治体として為し得る条例制定権を行使して、請願権条例を制定するよう配慮されたい。