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令和3年9月定例会(陳情第11号)
第11号 令和3年6月21日受理 総務文教委員会 付託
辺野古新基地建設の中止と、普天間基地の沖縄県外・国外移転について国民的議論を行い、憲法に基づき公正かつ民主的に解決するべきとすることを求める意見書提出に関する陳情
陳情者 「新しい提案」実行委員会 責任者 安里長従 外1名
(要旨)
1.不合理に区分された「本土の民意」と「沖縄の民意」
辺野古新基地建設の問題は、憲法が規定する民主主義、地方自治、基本的人権、法の下の平等・差別の禁止の各理念からして看過することができない重大な問題である。
2019年2月、沖縄県による辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票で、投票総数の7割以上が反対の意思を示した。わが国が真に民主主義国家であるならば、沖縄の人たちが直接民意を示したその結果が尊重され、状況は改善されているはずだが、県民投票から2年が経過したにもかかわらず、名護市辺野古において、現在もなお工事が強行され、さらには、その埋立てに、沖縄戦戦没者の遺骨が残る沖縄島南部から採取した土砂を使用することが予定されていることに、沖縄県議会や県内市町村議会をはじめ多くの県民が抗議を行っている。
安倍晋三前首相が2018年2月衆議院予算委員会において普天間基地の代替施設が同じ沖縄の辺野古に決定した理由を問われ、「移設先となる本土の理解が得られない」と述べたように、安全保障の地政学的事由、またアメリカの強い要求という言い訳も、これまで日米の政府関係者らの発言、多くの識者の分析によって瓦解している。
政府は、普天間基地の速やかな危険性除去を名目として辺野古への新基地建設を強行しているが、普天間基地の返還は、もとより沖縄県民の永きにわたる一致した願いである。
日米安保条約に基づき米軍への基地の提供が必要であるとしても、それは本土・日本国民が全体で負担すべきでものであり、歴史的・構造的に過剰な負担が強いられ続ける沖縄の声を無視し、「本土の理解が得られないから」と新基地建設を強行することは沖縄に対する差別である。
国家の安全保障に関わる重要事項だというのであれば、なおのこと、政府のみならず全国の地方自治体及び日本国民は、沖縄が直接示した声に耳を傾け、憲法に基づいた公正かつ民主的な解決をはかることが求められている。
2.憲法41条、憲法92条、憲法95条違反
名護市辺野古に新基地を建設する国内法的根拠としては、内閣による閣議決定(2006年5月30日及び2010年5月28日)があるのみである。
憲法41条は、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」と定め、「国政の重要事項」については国会が法律で決めなければならないとする。次に、憲法92条は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」とし、地方公共団体の自治権をどのように制限するかは法律で規定されなければならないとする。そして憲法95条は、「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」と定める。
安倍晋三前首相は2015年4月8日参議院予算委員会で「辺野古問題は国政の重要事項にあたる」と答弁し、2016年9月16日の福岡高裁那覇支部判決は、辺野古新基地建設が「自治権の制限」を伴うことを認めている。そうだとすると、閣議決定のみで決定され、強行されている辺野古米軍基地建設は、憲法41条、憲法92条、憲法95条に反する。
3.SACO(沖縄に関する特別行動委員会)の基本理念違反
普天間基地の返還はSACO(沖縄に関する特別行動委員会)において日米間で決定した。SACO設置の経緯について防衛省は公式に次のように説明している。「政府は、沖縄県民の方々の御負担を可能な限り軽減し、国民全体で分かち合うべきであるとの考えの下、(中略)在日米軍施設・区域の整理・統合・縮小に向けて一層の努力を払う」(防衛省HP「SACO設置などの経緯」参照)。しかしながら、1996年12月のSACO最終報告では、普天間基地の代替施設と称して同じ沖縄県内に新基地を建設するものとされたことは、SACO設置時の基本理念に違反している。
4.民主主義の二つの原則に反する
民主主義は、多数者支配の政治を意味せず、その決定は、単なる多数決ではなく、少数者の権利の保障も責務とされている。
つまり、民主主義とは「多数決の原理」と「少数者の権利の保障」という二つの原則からなり、これらは民主主義国家の基盤を支える一対の柱である。多数決の原理は公共の課題に関する決断を下すための手段であり、少数者の抑圧の手段ではないからである。
なお、国政選挙において日米安保破棄等を明確に争点として掲げ、多数の信任を得ることを求めずに「沖縄に要らないものは全国のどこにも要らない」と頑なに主張することは、公共の課題である安全保障政策について多数決を尊重せず、かつ結果的に「本土の理解が得られない」から「辺野古が唯一」という政府の理由を補完することになる。とすれば、かかる主張もまた、先に述べた民主主義の二つの原則に反するものである。
普天間基地の返還が25年以上もかけ「なぜ1ミリも進まないのか」という問いに対する答えは、政府のみならず全国の地方自治体も日本国民も、この民主主義の実践から逃げてきたからということにほかならない。
5.法の下の平等及び差別の禁止違反、幸福追求権、平和的生存権の侵害
沖縄の人たちは憲法13条が保障する幸福追求権などの基本的権利から遠く、憲法前文等が保障する平和的生存権さえ脅かされ続けている。このことは、1945年の本土防衛と位置づけられた沖縄戦、1952年のサンフランシスコ講和条約での沖縄の施政権の切り離し、同時期における本土からの沖縄への米軍基地の移転、1972年の日本復帰後も変わらぬ過重な米軍基地負担という歴史的経緯、度重なる米軍及び米軍属による事件・事故などからも明らかである。
国連の人権理事会及び人種差別撤廃委員会も沖縄の基地に関する問題を断続的に取り上げており、特に人種差別撤廃委員会は、2010年、「沖縄における軍事基地の不均衡な集中は、住民の経済的、社会的及び文化的権利の享受に否定的な影響があるという現代的形式の差別に関する特別報告者の分析を改めて表明する。」との見解を示している。
少なくとも、1996年4月、当時の橋本総理大臣とモンデール駐日大使が「今後5年ないし7年以内に、十分な代替施設が完成し運用可能になった後、普天間飛行場を返還する」との発表をした際、代替施設が必要だというのなら、前記SACO設置時の基本理念に基づき、沖縄以外の全国の自治体が等しく候補地となり公正かつ民主的に解決すべきであった。しかし、政府は、専ら「本土の理解が得られない」という不合理な理由により、「辺野古が唯一」と繰り返し、同じ沖縄の辺野古に新基地の建設を強行している。これは憲法が保障する法の下の平等及び差別の禁止に反し、沖縄の人たちの幸福追求権や平和的生存権を侵害している。
6.求められているのは、憲法に基づいた公正かつ民主的な解決
以上のとおり日本国民及び全国の地方自治体は、憲法前文で「わが国全土にわたつて」約束した自由の恵みが沖縄にも差別なくもたらされるため、沖縄県民の民意に沿った公正かつ民主的な解決を国に求める責任がある。
沖縄の県民投票における民意を尊重せず、一方で「本土の理解が得られないから」という不合理な理由に基づき決定され、強行されている沖縄県内への新たな基地建設は憲法が禁止する差別であり、これを許すべきではなく、工事はただちに中止すべきである。
次に、安全保障の議論は日本全体の問題であり、普天間基地の代替施設が国内に必要か否かは、国民全体で議論するべき問題である。そして最終的には国権の最高機関たる国会で沖縄の米軍基地の負担軽減を国が最終的に責任をもって行う法整備等の仕組みのなかで行うべきである。
そのなかで普天間基地の代替施設が国内に必要だという結論になるのなら、憲法41条、92条、95条の規定に基づき、沖縄以外でも一地域への一方的な押付けとならないよう、公正かつ民主的に解決すべきである。
ついては、貴議会において、次の事項を求める意見書を国に提出されたい。
1 沖縄での県民投票に示された民意に反する辺野古新基地建設工事を中止し、普天間基地を運用停止にすること。ことに沖縄戦戦没者の遺骨の残る沖縄島南部から採取した土砂を埋立てに使用することは、戦没者の遺骨の尊厳を損なうものであり、認められるべきではないこと。
2 普天間基地の代替施設が日本国内に必要か否か当事者意識を持った国民的議論を行い、最終的には国権の最高機関たる国会で沖縄の米軍基地の負担軽減を国が責任をもって行う法整備等の仕組みのなかで解決すること。
3 そのなかで、普天間基地の代替施設が国内に必要だという結論になるのなら、沖縄以外の全国すべての自治体をまずは等しく候補地とし、憲法の規定に基づき、沖縄以外でも一地域への一方的な押付けとならないよう、公正かつ民主的な手続きにより決定すること。