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国内の産地としては沖縄県や宮崎県が有名なマンゴーですが、ここ雪国・南魚沼で完熟したマンゴーの栽培に成功した生産者がいることをご存知でしょうか。数々の失敗を乗り越えながら、ブランド化に成功した「ゆきぐに温泉マンゴー」。雪国の奇跡と謳われているストーリーをご紹介します。
マンゴー栽培の始まりは、社屋の裏で源泉温度64度、毎分1,000ℓの温泉を掘り当てたことでした。ゆきぐに温泉マンゴーを運営する江口幸司さんは、長年ボーリング掘削業を営む株式会社江口設備工業の代表取締役です。
「自分の温泉を掘ってみたいとずっと思っていました。このあたりは温泉が出ないだろうと言われていたのですが、やってみたら地面から約640mほどで湧き出てきたのです。」
「この温泉を何かに活用できないか」と考えていた時、江口さんはテレビ番組で宮崎県の東国原英夫氏(2007年当時の宮崎県知事)が宮崎県産マンゴーの販売に力を入れていることを知ります。
「どんなものか気になって、すぐにマンゴーを食べに宮崎県に行きました。初めて食べた瞬間『この世のものとは思えない美味しさ』に感動しました。一口で虜になってしまって、温泉を活用すればきっと育てられると思い、栽培することを決心しました。でも、そこからが本当に大変でした。」
宮崎県内のマンゴー農家をいくつも訪ね、栽培方法を学ぼうとしましたが、当時はどの農家も自分たちの産地を守るため、マンゴーの栽培方法を教えてくれなかったそうです。それでも諦めずに情報を集め、沖縄県のマンゴー農家から20本の苗を購入し、温泉熱を使ってビニールハウス内をマンゴーの生育環境に適した温度に調整して栽培を始めました。
「最初は商品として出せるようなマンゴーは実らなかったですが、実った小さなマンゴーを食べてみると宮崎県で食べたマンゴーと同じ味がしました。感動しましたね。でも、周りからは絶対に上手くいかない、ナスやキュウリを育てた方がいいとも言われました。それが逆に『絶対に成功させるぞ』という原動力になりました。」
「ようやく商品として出せる量が1,000個くらいになった頃、取引銀行の周年記念式典にうちのマンゴーを無料で約700個提供しました。パーティーで理事長が『これは雪国・南魚沼で生産されているマンゴーで…』と説明してくださったのですが、会場の人は誰も信じていませんでしたね。それでも説明を続けるものだから、会場がザワザワしていました。」
このことがきっかけで、ようやく日の目を見ることになった江口さんのマンゴー。当時は南国のフルーツにとって、ネガティブな印象になるのではないかと「雪国」や「魚沼」といった言葉は使っていませんでした。
「南国のフルーツですから、雪国で育てられているのは、マイナスの印象になるのではないかと思っていました。でも『雪国だから意外性があっていい、ブランドになる』と言ってくださる方がいて、それで『ゆきぐに温泉マンゴー「魚沼の妖精」』というブランド名をつけて、販売を開始しました。」
こうした不撓不屈の精神と試行錯誤の末、誕生した「ゆきぐに温泉マンゴー」。現在では、年間100名限定で2Lサイズのマンゴーが10個送られてくる年間オーナー制度に申し込みが殺到するほど全国でも認知度が上がっています。
江口さんが育てているマンゴーは「アップルマンゴー」と呼ばれているアーウィン種。国産マンゴーの多くがこの品種です。真っ赤に色づき、完熟して樹から自然に落下したマンゴーのみを出荷・販売しています。
現在、栽培している樹は約400本。多い時には年間で7,000個近く収穫されていますが、気候や受粉の状況によっては4,000個程度まで減ることもあります。作業は一つひとつが手作業で、マンゴーに枝や葉の影がかからないように紐で吊るし、収穫が近づくと樹から落下したマンゴーが地面に落ちないように収穫用のネットで実を包みます。
贈答品として購入される方が多く、一筋の傷もつけられません。南国と気候・環境が違う雪国での栽培は想像以上に大変な作業です。
「作業は大変だけど、ゆきぐに温泉マンゴーはそれだけ美味しいです。海外産のマンゴーは熟す前に収穫されて日本に入ってきますけど、国産のマンゴーは自分の力で熟して落ちてくる訳ですからね。甘みが違います。」
食べる時は、中心にある種を避けるように3枚に切り、縦または斜めに賽(さい)の目状に切れ目を入れ、最後に裏からそっと果肉を押し出すと食べやすいそうです。
「特に種の周りが甘いので、真ん中の部分は皮を剥いてかぶりついてください。マンゴーの甘さが一番良く分かると思います。濃厚な甘さのあと、すっと口の中で溶けていくすっきりと爽やかな後味が『ゆきぐに温泉マンゴー』の魅力です。」
お客様から苦情をもらったことは一度もないとのことですが、食べる時に気をつけてもらいたいのが「食べきれずに冷凍する場合は解凍せずに食べる」ということだそうです。
「糖度が高いので凍った状態のまま包丁で切ることができます。解凍してしまうと果肉がドロドロに溶けてしまって、舌触りが悪くなってしまうので解凍はしないでください。でも、できれば生のまま食べていただきたいですね。」
ゆきぐに温泉マンゴーの旬は7月から。沖縄県や宮崎県よりも1ヶ月ほど遅めです。出荷状況にもよりますが、県内の百貨店やスーパーで贈答用に販売されることもあります。
「最初の頃は約300本の幼木を枯らしてしまったこともありましたが、そういう失敗を重ねていかないと、これまで誰もやらなかったことを成功させることは出来ないのです。」
「マンゴーも温泉も、まだまだ活用できる余地があります。商品にできなかったマンゴーをアイスに加工してみたいですね。種はカレーに使うという話をお客様から聞いたこともあります。大きな露天風呂に水着で海外の観光客の方々が入って、雪の中で温泉を楽しめて、施設内ではマンゴー、バナナといった南国のフルーツや早出しのブドウが楽しめる。そういった場所がつくれたらと構想しています。温泉には人を呼び込む力がありますから。」
まだまだ道半ばの様子の江口さん。マンゴーの管理を共に支える専任スタッフの他、相談役の村山茂樹さんと一緒に販路や活用方法を探しています。
「マンゴーにはビタミンA・βカロテン・ビタミンCなどが豊富に含まれています。美肌効果や老化防止にも有効ですからね。いろいろな人に食べていただきたいです。」
雪国で育つ南国フルーツ。新しいことに挑戦する生産者の努力によって、新しいフードストーリーが南魚沼市に生まれました。一口食べれば虜になること間違いありません。雪国・南魚沼で生まれたマンゴーをぜひ食べてみてくださいね。
取材日:2021年6月29日
ゆきぐに温泉マンゴー「魚沼の妖精」 名産地の負けない糖度があり、濃厚でなめらかな舌触りです。 7月上旬~8月中旬 |
ゆきぐに温泉マンゴー 住所:新潟県南魚沼市五郎丸557 ※店頭での販売は行っておりません。 ゆきぐに温泉マンゴーホームページ<外部リンク> |