ページ番号を入力
本文
古事記の天岩戸(あまのいわと)伝承にも記されている「神楽」は、能面のような面を被る踊り子とお囃子やシャギリの音とともに神事として行われ、奉納されます。森羅万象に神が宿っているという神道信仰は南魚沼の山岳信仰と結びつき、八海山の麓にも息づいています。
「神楽」の名を冠した新潟・南魚沼の夏野菜の一つ「神楽南蛮(かぐらなんばん)」。南魚沼では生産者は数少なく、農家の野菜づくりの教科書にも載っていないほどマイナーな野菜ですが、唐辛子の一種でありながら、ピーマンに似た食味と食感をもつ完熟した赤い実を加工した神楽南蛮味噌の人気が高まっています。
パスタやイタリアン、果てはアイスやジェラートまで。伝統的な神楽南蛮味噌を守りながらも、辛味を活かして“現代風”な楽しみ方を開拓する農家を訪ねました。
「南魚沼の上田地区というところで、巻機(まきはた)なんばん味噌(神楽南蛮味噌)を作っていた生産者の方々が味噌づくりを辞めるというのを聞いたんです。高齢化で栽培も加工も続けられなくなったと。当時私は消費者の一人でしたけど、実家が農家だったこともあって、なんとか私が引き継げないかと相談して、栽培を引き継いだのが2013年でした。」
南魚沼で育てられている神楽南蛮の種と苗は、限られた場所でしか買うことが出来ません。気候条件によっては『青枯病』によって全滅するリスクもあり、効果的な栽培を進めるため、ハウス栽培をされています。
石坂敦子さんが受け継いだ神楽南蛮栽培。ハウス1棟600本の植えつけからスタートした農業に阿部美保子さんが加わり、今日まで続けてきました。
石坂敦子さん
阿部美保子さん
「神楽南蛮って、まだまだマイナーなんです。農家の両親も知らなかったくらいですし、このあたりの辛味のある夏野菜ってシシトウなんですよね。だから、地域で食べる機会を増やす工夫をしないとなくなってしまうなぁと思っています。」
南魚沼の神楽南蛮を残すために、インスタグラムでレシピなどの発信も行っている石坂さんと阿部さん。神楽南蛮には、まだまだ知られていない魅力があるのだといいます。
巻機工房インスタグラム<外部リンク>
新潟県では長岡市の山古志地区の神楽南蛮が多く流通しています。南魚沼には長岡空襲を受けて移り住んだ農家から地域に根づいたとも言われており、そこから種が取られ土着していくうちに独自の食味と辛味を持った南魚沼の神楽南蛮になりました。
「以前、企業の依頼を受けて神楽南蛮の栽培をしたことがありましたけど、オーダーを受けたものと違う実の厚さや食味のものができて、買い取ってもらえなかったことがあったんです。同じように栽培しても違った食味のものができてしまうこともあるんですよ。」
肉厚で辛味はタネとワタに強くある
南魚沼の神楽南蛮は特に肉厚で、味噌に加工するだけでなく具材としても様々な料理に使い勝手が良く、石坂さん達が栽培した神楽南蛮は、首都圏のレストランにも直接出荷されています。
「肉厚で食べ応えのある唐辛子なんですけど、皮が柔らかく口に残らない特徴があります。東京のピザ屋さんや銀座のフレンチのレストランでは具材として使ってもらっていますし、浅草のおにぎり屋さんでは神楽南蛮味噌が出てますね。」
神楽南蛮の特徴は食感はピーマンのようでありながら、唐辛子の辛味があるところです。ワタと種の辛味が強いため、調理の時にはワタと種を入れる量で辛さを調整することが出来ます。
ピーマンやパプリカに近い使い方も出来るため、肉詰めにして焼いたり、オーロラソースに神楽南蛮味噌を混ぜエビと和えるなど、和食、中華はもちろん洋食にも使うことが出来る万能な夏野菜。
「自宅では納豆や目玉焼きに南蛮味噌を添えたり、キュウリや焼いたシャケにも使えます。給食でも使われ、コンビニエンスストアではパスタでも販売されるなど、いろんな場面で活用できます。」
石坂さんたちは、この万能な神楽南蛮を使った新しい食べ方や魅力を見つけたいんだそうです。
農作業が落ち着く冬。加工品の製造・販売はもちろんですが、自分たちで作った神楽南蛮と味噌を使って観光客にもその味を知ってもらおうと試行錯誤を重ねているそうです。
「石打丸山スキー場でキッチンカーを出すこともあります。『神楽南蛮味噌』をソフトクリームにトッピングしたり、実家がやっているスキー場のレストランでは、ピーマンの代わりに神楽南蛮を使ったナポリタンを提供しています。ピリ辛になって美味しいんですよ。」
各地にご当地ソフトクリームは多くあり、山葵や蟹味噌、海老のソフトクリームやジェラートがある中で、南魚沼では「神楽南蛮ソフトクリーム」やジェラートが販売されています。
「他にも、摘果(間引き)の時に摘んだ小さい神楽南蛮を丸ごと酒・みりん・醤油で甘辛く煮てみるとか、食べ方にも工夫をしています。」
こういった様々な食べ方を工夫するのは、まだまだ少ない神楽南蛮の生産者を増やしていきたい気持ちがあるからなのでしょうか。
「神楽南蛮の農家になるのは、少しハードルがあるんです。生産者を増やそうにも種と苗を育てているところは限られていますし、実が大きくなると枝が折れることもあります。ハウス栽培なので夏の作業は大変ですね」
高齢化で辞める農家も出てくる中で、あらたに栽培を始めて軌道に乗せるには、とても時間がかかることもあり、生産者をいきなり増やすのは難しいのだといいます。石坂さんたちも、周囲の助言を得ながら生産効率や販路づくりの工夫をしてきて今があるのでしょう。
「私は新潟市が実家なので、地元にも名前が轟くくらい、神楽南蛮を広めていきたいですね」
と意気込みを語る阿部さん。若手農業経営者の2人が南魚沼の神楽南蛮づくりに、きっと新しい風を吹かせてくれるでしょう。
私たちに出来るのは、南魚沼の伝統野菜を絶やさないために地元で食べ続け消費していくことです。スーパーには中々並ばない作物かもしれませんが、たまには直売所に寄ってみてはいかがでしょうか。これからの神楽南蛮の使われ方にも注目です。
取材日:2020年8月18日
神楽南蛮
7月~10月 |
食欲をそそるマイルドな辛さ! |
巻機工房 お取り寄せに対応します。詳しくは下記ホームページをご覧ください。 ホームページ巻機工房 (makihatakoubou.com)<外部リンク> 住所:新潟県南魚沼市長崎 |
四季味わい館(道の駅南魚沼「雪明かり」) 住所:新潟県南魚沼市下一日市855 「四季味わい館」ホームページ<外部リンク> |